胃薬の種類とそれぞれの解説(PPI、P-CAB、H2受容体拮抗薬、防御因子増強薬)

こんにちは、Dr.シェパードです。

消化器で一番使用するといっても過言ではない胃薬。

他科でも処方を行う頻度が高いですが、詳しい使い分けを考えて出していますか?

今回は日頃出すことの多い胃薬についてまとめました。

目次

病院で処方するNo.1は?

PPI、P-CABが胃酸分泌抑制による治療効果が一番かつ飲みやすくだすことが多いです。胃潰瘍、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、低用量アスピリンの潰瘍予防など食道、胃、十二指腸の胃酸が関わる病気に対する治療効果は抜群。その他にそれぞれの特徴を鑑みて適応外処方も出すこともあります(適応外処方を推奨しているわけではありません、処方される場合は自己責任でお願いします)。

また薬局で手に入るOTCでは後述のH2受容体拮抗薬と防御因子増強薬で、胃酸分泌抑制効果で胃痛などの改善を狙うならH2受容体拮抗薬のほうが効果が高いことが多いかもしれません。

PPI(プロトンポンプ阻害薬)とP-CAB(イオン競合型アシッドブロッカー)

まず作用が高く現在の主流であるPPIおよびP-CABから。執筆現在4つの薬剤があります。もしかしたら詳しく使い分けているのは消化器内科医くらいかもしれません。

胃粘膜の壁細胞におけるプロトンポンプ(H+,K+-ATPase)が胃酸を分泌しますが、PPIはそのプロトンポンプを阻害することで胃酸分泌抑制作用を発現します。P-CABはH+,K+-ATPaseをカリウムイオンに競合して阻害し胃酸分泌抑制作用を発現します。

PPIは酸性条件下で不安定である一方で酸による活性化を要するため、活性化してもすぐに不安定で分解されてしまい、作用までに数日間の服用が必要とされていました。また、作用発現において重要な血行動態において肝薬物代謝酵素の一つCYP2C19の影響を受けるため相互作用や個人差がある問題がありました。

CYP2C19の遺伝子多型は抗血小板薬のクロピドグレルなどで言われることが多いのですが、CYP2C19に変異を持たないextensive metabolizer(EM)、1つ変異のあるintermediate metabolizer(IM)、2つ変異を持つpoor metabolizer(PM)があり、人種差があるとされ日本人では酵素機能低下しているPMが20%ほどと報告があります。クロピドグレルでは活性が低下するため、PMで問題になると考えられていますが、PPIでは血中濃度が上昇したままになるためPMで胃酸分泌抑制効果が高く、相互作用を起こしやすくなります。特にPPIは以下に記述の第1世代が影響されやすく第2世代は影響が少ないとされます

一方でP-CABは酸による活性化を必要とせず、酸にも安定しているため効果発現が早く、一部CYP2C19も関わりますが、他の代謝酵素も関わるため遺伝子多型に関わらないとされています。

最近の薬でもあり薬局で手に入るOTC(Over the counter)は存在しません

オメプラゾール(®オメプラール、®オメプラゾン)

第1世代PPIに分類される世界初のPPI。歴史は長く注射剤も製造されており、最近では注射剤のほうが使用頻度が高いかもしれません。またCYP2C19の影響を一番受けやすく併用注意薬が多かったり

ランソプラゾール(®タケプロン)

第1世代PPIに分類される。OD錠や注射剤がある。また低用量アスピリンとの合剤(®タケルダ配合錠)もありよく使っている人が多いかもしれません。一方でアスピリン含めたNSAIDsも関連が言われていますが、ランソプラゾールでは難治性下痢症の原因となるMicroscopic colitis(顕微鏡的大腸炎)の一つ、collagenous colitisの原因となりやすいとされます。ランソプラゾールだけでなくオメプラゾールやエソメプラゾールなど他のPPIでも報告があります。

Dr.シェパード
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タケルダってなんでそんな名前とおもった方も多いのでは?公式によるとTAKEpron+Low Dose AspirinでTAKELDAと名前がつけられたとのことです。

ラベプラゾール(®パリエット)

第2世代のPPI。CYP2C19の遺伝子多型の影響を受けにくいために薬剤の相互作用が少ない。また1日2回内服が適応となっており起床時の朝だけでなく夜にも症状が強い場合に使いやすく、用量も豊富で意外と使い勝手がいいですがあまり知られていない印象です。

エソメプラゾール(®ネキシウム)

第2世代のPPI。オメプラゾールをもとに作られた薬剤で基本的にはカプセル薬。小児に対する適応もあることが特徴。また懸濁顆粒があり嚥下機能低下の方や胃ろうや胃管からの投与にも使いやすい。

ボノプラザン(®タケキャブ)

PPIとやや異なる作用で胃酸分泌を抑える薬で、執筆現在唯一のイオン拮抗型アシッドブロッカー。早期効果発現、高効果という進化した薬剤。消化器内科医待望の低用量アスピリンとの合剤(®キャブピリン)が作られました。薬価はボノプラザン単体と同じという無料でアスピリンがついてきます(笑)。Collagenous colitisの副作用も執筆時点では言われていませんがまだ長期投与患者が少ないためかもしれませんので今後の報告に注意しましょう。

Dr.シェパード
Dr.シェパード

タケとつく薬剤が何個もある 皆さんご存知武田薬品が関わっておりタケがついてます。いい名前がなくキャブピリンは泣く泣く諦めたのでしょうか・・・

副作用

よく聞かれることのおおい長期内服による副作用ですが、いわゆるアレルギーや肝障害などどんな薬でも起こりうるものは省いて記載しておきます。意外と多いことにびっくりするのでは無いでしょうか。こういった点で漫然と長期に内服するのは推奨はされていませんが、治療とのメリット・デメリットによりますので安易に中止もやめていただき必ず主治医とご相談ください。

汎血球減少(白血球、赤血球、血小板それぞれのみということもある)、視力障害、腸管感染症(Clostridioides difficile<CD>腸炎など)、胃腸での吸収障害に伴う症状(Vit.B12や鉄、マグネシウムなど)、難治性下痢症(Collagenous colitis:特にランソプラゾール)、肺炎(Jena AB1 et al. J Gen Intern Med. 2013 ; 28 : 223-230 .4)、骨折、腎機能障害、認知症(JAMA Neurol. 16;73(4):410-416.)、(アスピリンなどNSAIDsによる小腸粘膜障害の増悪の可能性の報告あり)など

H2受容体拮抗薬

胃酸分泌を促進する神経伝達物質は3種類あり、ヒスタミン・ガストリン・アセチルコリンです。そのうちヒスタミンは胃壁細胞にあるH2受容体に作用することで活性化させ胃酸分泌を促進します。これをブロックすることを目的としたのがH2受容体拮抗薬です。

一方で胃酸分泌抑制以外にも用いられる事があり、よく見るのはアレルギーの際にH1受容体拮抗薬との併用でも使われることがあります。他にも個別の薬剤で適応外処方として用いられることがあります。

また薬局でも売っているOTCとして市販購入できます用法用量をお守りいただき、記載されている適応外使用は推奨されません。

ファモチジン ®ガスター

シメチジンよりもH2受容体への選択性が高く石灰沈着性腱板炎に使われることもあります。注射剤や内服薬があります。

シメチジン ®タガメット

内服薬です。石灰沈着性腱板炎に有効とも言われ治療目的で使われる事があります。(繁田明義, et al. 肩関節. 2011; 35(3): 907-910)。

ラフチジン ®プロテカジン

肝代謝であり腎機能を気にしなくても良いメリットがあります。一方でCYP3A4で代謝されるため関連した相互作用のある薬剤との併用に注意が必要。他に癌治療中の口内炎や舌痛症、末梢神経障害など副作用を緩和する可能性が言われています。機序としてはカプサイシン感受性知覚神経を介した作用とされています。これにより胃粘膜再構築を促進するとも言われています(https://www.taiho.co.jp/medical/product/protecadin/)。

ニザチジン ®アシノン

唾液分泌促進作用があり口腔内乾燥症に対しても使用することあり。アセチルコリンエステラーゼ阻害作用があるとされ、消化管運動を亢進する作用があるとされます(Ueki S, et al. J Pharamacol Exp Ther. 1993; 264: 152-177)。

ロキサチジン ®アルタット

唯一小児に対して使うこともできる。

ラニチジン ®ザンタック

NDMA(発ガン性物質)混入問題があり販売中止となった。

副作用

こちらもいわゆるアレルギーや肝障害などどんな薬でも起こりうるものは省いて記載しています。PPIよりも少なく感じるかもしれませんが、作用としては同様に胃酸分泌抑制作用もあるため、同様のものも見られる可能性があります。H2受容体拮抗薬に特徴的なものを簡単に記載しました。

高プロラクチン血症、汎血球減少(白血球、赤血球、血小板それぞれのみということもある)、抗アンドロゲン作用、ファモチジンでQT延長症候群など

防御因子増強薬

胃潰瘍や十二指腸潰瘍では胃酸など攻撃因子が胃粘液などの防御因子を上回っている状態にある場合にあるため起こるとも考えられていたため、その防御因子を高めるための薬剤がこれらの薬剤になります。粘液を増やしたり、血流を高めたり、粘膜保護作用のある物質を増やすなどの作用があります。

以前からあるためか非常に種類が多いため、一部について解説し一部列記のみとします。

またH2受容体拮抗薬と同様にOTCがあり薬局などで市販購入できるものが多いです

Dr.シェパード
Dr.シェパード

こんな使い方あるよなどあれば教えていただけると幸いです。

スクラルファート ®アルサルミン

潰瘍保護作用をメインとして粘膜修復作用や攻撃因子を抑える作用もあるとされる。

剤形が豊富で内用液や細粒剤など選択しやすい。消化性潰瘍ガイドラインではPPIやP-CABを使用できないときに投与可能な薬剤の一つとして記載あり。

ミソプロストール ®サイトテック(プロスタグランジン製剤)

消化性潰瘍ガイドラインではPPIやP-CABを使用できないときに投与可能な薬剤の一つとして記載あり。内服回数が多く大変。日本では未認可だが海外では中絶や分娩誘発、子宮内胎児死亡処置、産後出血などにも使用する事があるため、妊婦などへの処方には注意が必要

ポラプレジンク ®プロマック 

潰瘍保護作用をメインとして粘膜修復作用もあるとされる。成分中に亜鉛を含むため亜鉛欠乏症の際に補充で用いることもあります。

Dr.シェパード
Dr.シェパード

消化器内科としては亜鉛欠乏の起こりやすい肝硬変の方に使っていることもあります。逆に使用する際は過剰にならないよう亜鉛値を測定するようにしてください。亜鉛過剰になると銅欠乏症がおこります。

アルギン酸ナトリウム ®アルロイドG

粘膜保護作用、止血作用があるとされます。緑色の液体剤で色が特徴的なのと液体なので大量に出すと持って帰るのが大変になります。

テプレノン ®セルベックス

胃粘液分泌促進作用をメインとして粘膜修復作用、胃粘膜血流改善作用などもあるとされる。細粒剤があり嚥下能力低下した高齢者などに使いやすい。

レバミピド ®ムコスタ

胃粘液分泌促進作用をメインとして胃粘膜血流改善作用もあるとされる。顆粒剤もあり、嚥下能力低下した高齢者にも使いやすい。点眼薬などもある。またNSAIDsに起因する小腸粘膜障害に対して有効という報告もあり用いることがある。

Dr.シェパード
Dr.シェパード

昔から”ロキムコ”という略語で痛み止めのセットとして出される事が多いですが、基本的には潰瘍予防という意味合いで出しています。ただ、昔と比較して上にある良い薬剤があるためそちらを出してほしいというのが消化器医の本音です。願わくば合剤があれば・・・

イルソグラジン ®ガスロン・N

胃粘膜微小循環改善作用をメインとした薬剤です。血流を改善することで細胞を活発にし防御因子を増強させる薬剤になります。NSAIDsに起因する小腸粘膜障害に対して有効という報告もあり用いることがあるのがレバミピドと同様です。

スルピリド ®ドグマチール

うつ病や統合失調症にも適応が通っている珍しい薬。パーキンソニズムなどドパミン受容体遮断作用による副作用に注意が必要

他情報量も多くなるため列記のみとさせてもらいます。申し訳ございません。

エカベトナトリウム ®ガストローム(潰瘍保護作用、攻撃因子抑制作用など様々)、アズレンスルホン酸ナトリウム ®マーズレン、アルジオキサ ®イサロン、ゲファルナート ®ゲファニール、イルソグラジン ®ガスロンN、エグアレン ®アズロキサ、セトラキサート ®ノイエル、ソファルコン ®ソロンなど

最後に

胃薬といっても作用点の違いからかなり多岐にわたり消化器内科医としてもすべてを使い分けられているかといったらそうでは無いことも多いかもしれません。

どんな薬剤でも長期的内服による副作用は避けられないため、漫然と長期処方は見直すべきと今回の記事を書いている際に再確認しました。

皆様の日常診療の一助になれば幸いです。

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この記事を書いた人

首都圏で消化器内科医として臨床に携わり、消化器内科や医学一般について、医療者の生活についてなどの情報を発信しています。

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