胆嚢炎・胆管炎の原因とリスク、診断と治療まで

こんにちは、Dr.シェパードです。

今回は「胆嚢炎・胆管炎について原因とリスク、症状、治療」について解説をしていきます。

消化器専門医師以外かなりの方が区別できずに間違えている疾患ですので、こちらの記事が少しでも参考になれば幸いです。

Dr.シェパード

他科からの相談での正確な診断率は結構低いです。医学生や研修医の方は基本から覚えておくと役に立つはずです。

目次

ポイント

  • 肝臓で作られた胆汁の通り道で菌が感染することで起こる疾患が胆嚢炎・胆管炎で、症状は右上腹部痛、発熱などが特徴である
  • 東京ガイドライン(TG)により診断基準は明確に記されており、アプリもあるため手軽に参考にできる
  • メインの通り道(総胆管)が詰まるのが胆管炎脇道にある袋の胆嚢が詰まるのが胆嚢炎
  • そのため診断基準で肝酵素や黄疸があればほぼ胆管炎採血関係なく胆嚢に異常があれば胆嚢炎
  • 早期の治療について必ず相談するべき先が違う→胆嚢炎は消化器外科胆管炎は消化器内科
  • どちらも治療が遅れると命に関わる敗血症に移行する可能性があり、早期治療が望ましいため専門科へその場で相談を。
Dr.シェパード

自作のチャートも載せておきます。胆管炎・胆嚢炎を中心として即席で作ったため穴があるかもしれませんが、およそ考え方としてはこういった順番かと思います。訂正があればご教授ください。

概要

人は食べ物を食べると、食道から胃へすすみ消化された食べ物は次に十二指腸に進みます。その刺激により分泌されるホルモンの影響で胆道から胆汁が、膵臓から膵液が十二指腸乳頭を介して流出します。流出してきた膵液と胆汁とで食物をさらに消化していきます。そして胆汁は最初は黄色透明な液体で、次の小腸・大腸を通っていく過程で変化していき、便の茶色になるため我々の便は茶色をしています。食物の消化にとって大事な役割を果たすのが胆汁であり、肝臓で常に作られています。その通り道が胆道です。肝臓内の胆道(=肝内胆管)から外に出たメインの通り道(=総胆管)が十二指腸乳頭に繋がります。その途中に胆嚢管と呼ばれる脇道があり、胆嚢という胆汁を貯めておく袋へとつながっています。胆嚢炎はこの胆嚢で菌が増えたりすることで炎症が起こった状態胆管炎は総胆管のどこかで菌が増えたりすることで炎症が起こった状態を言います。

原因とリスク

胆嚢炎・胆管炎の原因となるのは胆石が多く、他には悪性腫瘍(胆嚢癌・胆管癌・肝内胆管癌・膵癌・十二指腸乳頭部癌、転移性リンパ節腫大など)胆道出血による血餅(血の塊)寄生虫(エキノコックス:狐から感染、北海道で多いや回虫他)などがあります。その中でよく聞くのが胆石かと思いますが、大体10%くらいの人が保有していると言われます。この原因ははっきりとはわかっていませんが、高脂肪食が原因の一つと考えられています。

Dr.シェパード

リスクのある方を5Fと呼んでいます。Fatty, Forty, Female, Fecund, Fair肥満・40歳以上・女性・多産・白人です。

Ns.うさぎ

10%も胆石があるなんて結構多いですね。胆石は薬では治せないのかな

Dr.シェパード

よく外来でも聞かれるんですが、胆石の性状により小さくしていくことができることもあります。ビリルビン結石というタイプではウルソデオキシコール酸でできますが、コレステロール結石は現状薬では治せません。

症状

典型的な症状は右上腹部、ちょうど肋骨の一番下のライン(肋骨弓)がありますが、そのあたり(右季肋部)の痛みです。特に胆汁を出すために頑張る食後に多いです。また横隔膜付近に胆嚢がある場合、右肩の痛みとして感じる方もいらっしゃいます(放散痛)。また右季肋部の背中側の痛みもでることがあります。他に発熱や黄疸(眼球が黄色くなる、肌が黄色くなる)などは治療が必要な程であれば出てくることが多いです。

検査

診断のためには、一般的な採血検査、腹部超音波検査、腹部CT検査が有用です。

採血検査では肝酵素(AST, ALT)や胆道系酵素(γ-GTP, ALP)は基本として腎機能や炎症反応など基本的に必要な検査は提出しましょう。重症かを判定するため、DICの診断基準、内視鏡処置の参考にも凝固(PT, APTTなど)も提出してあるとまた後述する胆石性膵炎という合併症があるかで緊急内視鏡処置を必ず要するか決める一つになりますので膵酵素(AMY, P-AMY、リパーゼなど)を提出しましょう。

画像検査は基本は腹部CT検査が診断の補助となります。そして侵襲度が低い簡便な検査として腹部超音波検査も組み合わせるとより良いですがやや技術が必要です。

Dr.シェパード

胆石は厄介なことにCT陰性結石があります。そのためCTで胆石が無いからと言って否定はできません腹部超音波検査を組み合わせるのがgoodです

診断基準

<急性胆管炎>

A. 全身性の炎症所見

A-1. 発熱

A-2. 血液検査で炎症反応所見

B. 胆汁うっ滞所見

B-1. 黄疸:身体所見とT-Bil、D-Bil上昇

B-2. 血液検査で肝胆道系酵素異常:AST, ALT, ALP, γ-GTP上昇

C. 胆管病変の画像所見

C-1. 胆管拡張

C-2. 胆管炎の成因:胆管狭窄、胆管結石、ステントなど

確診:Aのいずれか+Bのいずれか+Cのいずれか

疑診:Aのいずれか+BまたはCのいずれか

TG18ガイドラインより一部改変

<急性胆嚢炎>

A. 局所の臨床徴候

(1)Murphy’s sign, (2)右上腹部の腫瘤触知・自発痛・圧痛

B. 全身の炎症所見

(1)発熱, (2)CRP値の上昇, (3)白血球数の上昇

C. 急性胆嚢炎の特徴的画像検査所見

超音波検査: 胆嚢腫大 長径>8cm、短径>4cm、胆嚢壁肥厚 >4mm、嵌頓胆石、デブリエコー、sonographic Murphy’s sign、胆嚢周囲浸出液貯留、胆嚢壁sonolucent layer、不整な多層構造を呈する低エコー帯、ドプラシグナル

CT:胆嚢壁肥厚、胆嚢周囲浸出液貯留、胆嚢腫大、胆嚢周囲脂肪織内の線状高吸収域

MRI:胆嚢結石、pericholecystic signal、胆嚢腫大、胆嚢壁肥厚

確診:Aのいずれか+Bのいずれか+Cのいずれか

疑診:Aのいずれか+Bのいずれか

TG18ガイドラインより

簡単にまとめると、胆管炎は胆管がつまったことで起こる反応が胆嚢炎は胆嚢自体がどうなっているかが診断基準の根幹をなしています。

2つを比べてみていただきたいのですが、胆管炎には肝胆道系酵素上昇がありますが胆嚢炎には診断基準にありません胆嚢炎にはALPもγ-GTPも関係なく、一方で特に肝酵素上昇(AST, ALT)や黄疸があり典型的な症状があればおよそ胆管炎の診断となります。

Dr.シェパード

やや難しいのが胆管炎を起こす総胆管の閉塞の際に2次性に胆嚢が腫大し胆嚢炎を来すこともあること、胆嚢炎の亜型でMirizzi症候群と呼ばれる病態があります。

2次性の胆嚢腫大・胆嚢炎はわかりやすく、胆管が閉塞したことによる詰まりが胆嚢にも均等に及ぶためです。

Mirizzi症候群は聞き慣れないかもしれませんが、胆嚢管に胆石が嵌頓した結果、総肝管や総胆管が圧迫され閉塞する病態で、肝酵素上昇や黄疸などを呈することがあります。画像所見などでわかるのですが、胆管炎にしろMirizzi症候群にしろ専門科への相談はなるべく早めに必要なので非専門医が具体的に分ける必要はないでしょう。

ちなみに死亡率ですが、急性胆管炎はおよそ2.7-10%(日本の報告で2.7%)、急性胆嚢炎は1%未満とガイドラインでは記載されています。胆嚢炎では保存的治療後の再発率が19-36%、胆嚢ドレナージ後で22-47%とされ胆嚢摘出術を待機的でも行うことが重要です。

TG18についてはアプリもあります、ぜひ検索ください。余談ですが、急性膵炎ガイドラインもあります。

治療へと繋げる前に

それぞれ治療が異なるため別で書きます。いずれにせよ重症度判定が重要となります。軽症・重症はどちらも同じです。

重症度判定基準:TG18ガイドラインより

重症:以下のいずれかを伴う場合

  • 循環障害(ドパミン5μg/kg/minまたはノルアドレナリンの使用)
  • 中枢神経障害(意識障害)、呼吸機能障害(PaO2/FiO2比<300)
  • 腎機能障害(乏尿、またはCr>2.0mg/dl)
  • 肝機能障害(PT-INR>1.5)
  • 血液凝固異常(血小板<10万/μl)

中等症:それぞれで異なります

<急性胆管炎>

以下の5項目の内2項目該当するものがある、または初期治療に反応しなかった場合も中等症とする。

  • WBC>12000/μlまたは<4000μl
  • 発熱(≧39℃)
  • 年齢(75歳以上)
  • 黄疸(総ビリルビン≧5mg)
  • アルブミン(<健常下限値×0.73g)

<急性胆嚢炎>

以下の項目のいずれかを有する場合中等症とする。

  • 白血球数>18000/μl
  • 右季肋部の有痛性腫瘤触知
  • 症状出現後72時間以上の症状持続
  • 顕著な局所炎症所見(壊疽性胆嚢炎、胆嚢周囲膿瘍、肝膿瘍、胆汁性腹膜炎、気腫性胆嚢炎などを示唆する所見)

軽症:中等症、重症を満たさないもの。

急性胆嚢炎の治療・専門医をよぶポイント

基本治療は「胆嚢摘出術」で手術が基本のため消化器外科との連携が欠かせないです。特に腹腔鏡下手術の出現から非常に早期退院が可能となったため、第一治療として考えられるようになりました。Golden timeは前の版では72時間以内とされていましたが、最新版では遅くとも1週間以内の早期手術が6週以降の待機手術に比較して入院期間が短く、再燃による付加治療を要したり臨時手術の可能性がないため医療経済的によいとはされています。つまり、早期手術の定義が「遅くとも1週間以内に行う」ということになります。

Dr.シェパード

基本的には24時間以内と72時間以内とで差はなかったとされるため、わざわざ夜中に外科の先生、麻酔科の先生、看護師さんなどを呼び出してまで行う必要はなく万全の体制の日中に行ってもよいとされます。

軽症であれば抗生物質投与で保存的加療後の早期腹腔鏡下胆嚢摘出術(Lap-C)、中等症であれば抗生物質投与での初期治療後に早期Lap-Cまたは緊急/早期胆嚢ドレナージ(PTGBD:経皮経肝胆嚢ドレナージなど)後か初期治療継続後の待機的Lap-Cを行います。

重症例では治療経過が良好な場合にPSが良ければ早期Lap-Cですが、全身状態が悪い場合には緊急/早期胆嚢ドレナージ後に待機Lap-CまたはPS不良であれば保存的加療となります。

Dr.シェパード

施設のルールにもよるかと思いますが、基本的には外科治療が最終的に必要なことが多いため消化器外科には必ず相談しましょう。緊急で侵襲的治療を要することは少ないかもしれませんが中等症以上であればなるべく早めの相談が必要でしょう。

急性胆管炎の治療・専門医をよぶポイント

急性胆管炎の主軸は「抗菌薬投与」と「胆管ドレナージ(ERCPまたはPTBD)」であるため、必ず消化器内科に相談することが必要です。重症度が上がるごとにスピードが求められ、重症であれば緊急胆管ドレナージが必要であり、中等症ではなるべく早期に、軽症ではドレナージは必要ない可能性もあるが、改善しない場合は考慮することになるため、いずれにせよ相談が必要です。もし胆道ドレナージができない施設であれば、できる施設への転院が必要です。

基本的に胆道ドレナージは内視鏡下逆行性胆管膵管造影(ERCP)が第一選択になっています。経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)手技と比較して容易であること、その後の根本治療にもつながることもあり、あえてPTBDを選択することは少ないかもしれません。

また下部胆管の閉塞に伴う膵炎を合併している胆管炎の場合は急性膵炎に準じた治療を要し緊急の胆管ドレナージも必要となりますので緊急で相談をしましょう(急性膵炎診療ガイドライン2015年版より)。

Dr.シェパード

緊急で侵襲的治療を要する場合が多いです。中等症から重症または膵炎の合併の場合には緊急胆管ドレナージを要するのですぐに消化器内科医を呼びましょう。

最後に

消化器に対する非専門医は定義も曖昧になんとなくで覚えていることが多く、消化器医が相談を受けた際に不満を覚えることの多い分野を扱いました。

こちらを参考に日々の診療の助けになれば幸いです。

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この記事を書いた人

首都圏で消化器内科医として臨床に携わり、消化器内科や医学一般について、医療者の生活についてなどの情報を発信しています。

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