論文紹介:消化器がんによるがん悪液質患者におけるアナモレリンの多施設、オープンラベル、単アーム試験, Cancer 2019.

こんにちはDr.シェパードです。

本日は木曜日、論文紹介の日です!

今回は新型コロナウイルス感染の流行、ワクチン接種の普及の流れに埋もれている気もしますが、4月に販売開始となったグレリン様作用薬であるアナモレリン(®エドルミズ)の消化器がんに関する効果を研究した論文で2019年のCancer誌に報告されたものです(S. Hamauchi. Cancer 2019: 125: 4294-4302)。先行研究に肺がんでの有効性を示したものがあります

まず診断基準をあまり把握していなかったのですが、診療ガイドライン自体がほとんど作成されていないんですね。

がん悪液質は多因子が関わる症候群であり、進行する骨格筋減少が特徴で、骨格筋減少は通常の栄養療法では回復させることができず、最終的に機能障害に陥ると定義されています。

「Fearon基準」と呼ばれる診断基準は

  1. 過去6カ月間の体重減少が5%超
  2. BMIが20kg/m2未満の場合は体重減少が2%超
  3. サルコペニアがある場合は体重減少が2%超とし、いずれかの基準を満たしたときにがん悪液質と診断されます。

それでは論文の要旨から紹介していきます。

目次

Abstract

Methods

・多施設、オープンラベル、単アーム試験でアナモレリン100mgの50人の進行または切除不能な消化管癌(胃、大腸、膵臓)を有する日本人を対象とし有効性と安全性を調べた試験である。

・アナモレリンの投与は1日1回で12週間の投与と4週間の観察で検討した。

・主要評価項目はDEXA評価による除脂肪体重(LBM)、LMBが維持された割合。

・副次評価項目は、食欲、体重、脂肪量、QOL、バイオマーカー(プレアルブミン、IGF-1、IGFBP-3)、安全性。

Results

・患者の年齢中央値は66.5歳、体重中央値49.2kg、BMI中央値18.95。内訳は、大腸がん40例、胃がん5例、膵がん5例であった。

・除脂肪体重の奏効率は63.3%であった。95 %CIの下減も当初の閾値を超えており主要評価項目を達成していた。特に膵がんでは全例増加を認めた。また増加した除脂肪体重および体重は時間が経っても維持されており、12週での除脂肪体重の増加は1.89kgであった。

・食欲関連QOL(食欲はあったか、食事をおいしいと思ったか、やせたか)の質問についてはいずれも改善がみられた。

・全Gradeの有害事象は42.9%に認められたが、Grade3以上は10.2%(5例)、Grade3で頻度が高いものは糖尿病6.2%(3例)であった。

Conclusion

アナモレリンは消化器がん悪液質患者の除脂肪体重、体重を早期に有意に増加させ、食欲関連QOLも改善させた。また、12週以上の忍容性も良好であった。消化器がんにおいても、がん悪液質を有する患者の有効な治療オプションとなる可能性を示した。

コメント

がん悪液質では体重減少や筋力低下、食事摂取不良で抗癌化学療法を継続するにあたって阻害要因となりうる病態であり、QOLについても低下させる要因となります。こういった場合に一緒に呈することの多い嘔気の改善や食欲増進効果などを狙い少量のステロイドの内服であったり、補中益気湯・十全大補湯や六君子湯などの漢方薬を試すなど直接的な治療法がなく悩ませてきた病態です。

今回販売されたアナモレリンはその中でがん悪液質に対して有効である可能性を示した薬剤です。

対象症例が肺がんと消化器がんに限られることから現時点では対象症例が少ないですが、今後適応が拡大されていく可能性はある一方でどこまで有効かということにやや疑問があります。結局はQOLや生存期間延長ということに果たして繋がるのか不明瞭な点がネックです。筋肉量や除脂肪体重が増え食欲の増加で治療継続性や投与量の増加が得られれば効果についても伴ってくる可能性はありますが、どこまで忍容性を高めてくれるのか、それは今後の報告が待たれます。

実際に欧州医薬品庁(EMA)や米国食品薬品局(FDA)は申請を却下しています。

また対象症例が経口摂取可能なことが前提であり消化器がんでは症例が限られる可能性があること、他癌種について腹膜播種で食事摂取が不良になるか悪液質にまで至らない可能性があり使い所が難しい可能性があります。

使用方法としては100mgを1日に1回空腹時に投与し、3週間後に一度評価し効果があれば12週まで継続と添付文書にあります。

副作用としては、心血管系特に不整脈の頻度が10%ほどでやや高く、事前に心電図施行は必要であり、試験デザインでは投与後1週間後、3週間後の評価をしているため予定をしたほうが良いかと思います。

他には成長ホルモンに関わる部分が副作用になり糖尿病・高血糖や肝機能障害が頻度が高いです。

詳しくは適正使用ガイドを参照しましょう

幸いなのは新薬の割に薬価が安めなことです。何故かはわかりませんが、50mg錠での販売で1錠250円程のため、1日500円程であり医療費負担が少なめです。

おわりに

今回は新規発売となったアナモレリン(®エドルミズ)について解説しました。対象疾患が限られていますが今後の研究次第では適応拡大の可能性もありますが、やや注意が必要な副作用もあります。

有効性についても今後の発表が待たれるところです。

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この記事を書いた人

首都圏で消化器内科医として臨床に携わり、消化器内科や医学一般について、医療者の生活についてなどの情報を発信しています。

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