消化性潰瘍

こんにちは、Dr.シェパードです。

消化器疾患記念すべき第1弾は消化性潰瘍です!

程度の差はあれ遭遇する機会の多い消化性潰瘍。しかし実際に治療をどうするのか、大まかにしか知らない人も多いのではないでしょうか。

消化性潰瘍の最初から最後までを解説していきます。

目次

ポイント

  • 消化性潰瘍の原因として多いのはヘリコバクター・ピロリ菌解熱鎮痛薬のNSAIDsや抗血小板薬のアスピリンなどがある。問診が重要!
  • 胃潰瘍では食後に、十二指腸潰瘍では空腹時にみぞおちあたりの痛みが増強することが典型的
  • 便の色がコールタール色(真っ黒)の黒色便がでると出血性潰瘍を疑わせる
  • 診断は上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で止血処置などを行うことも可能
  • 基本治療はPPI/P-CABの内服または点滴治療とH. pylori除菌治療である
  • 上部消化管出血の場合には内視鏡的治療を行う。セカンドルックは潰瘍の状況に応じて行う
  • 必ず悪性腫瘍の可能性は忘れない
  • リスク要因がある場合はPPI/P-CABの継続を必ず行う

概要

食べ物を消化するために働く胃酸を始めとした消化液が自身の臓器が傷ついてしまった状態をいいます。特に胃潰瘍や十二指腸潰瘍のことを総称して消化性潰瘍とよびます。頻度は低いですが小腸潰瘍もあります。

原因

詳しい原因ははっきりとはわかっていません。粘膜に対する攻撃因子と防御因子のバランスが崩れた際に起こるのではないかと言われていましたが、最近ではヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori/H. pylori)および鎮痛薬のNSAIDsの影響が大きいことがわかりました。つまり問診では最近の痛み止め使用歴が重要であり、また年齢層によるH. pylori保菌率が変わるため、事前に予想でき健康診断や人間ドック受診歴からピロリ菌除菌歴まで聞けると完璧です。また最近では各科の先生方が十分に行っていただいているため少ない印象ですがアスピリンによる消化性潰瘍も見られることがありますので内服歴は非常に大事です。

症状

典型的には上腹部、みぞおちのあたりに痛みを感じることが多いです。痛みに関して典型的な場合胃潰瘍では食後に痛みが出ることが多く、十二指腸潰瘍では空腹時に痛みが強く、食事により軽快します。しかし臨床ではわかりやすい症状を呈さないことも多いです。

Dr.シェパード

胃潰瘍では食事により胃酸が分泌されると傷に直接攻撃されるため食後に痛みが強く、十二指腸潰瘍では空腹時は胃酸がそのまま流れ込むため痛みが強くなり、食事により胃酸が中和されて流れ込むため軽くなるんです。

痛みの他にははきけや胸焼けなども見られることがあります。出血がある場合(上部消化管出血)には嘔吐物に血液や黒いすすのようなカスが混じっていることがあります。しかし何度も吐いたりしたときには胃と食道のつなぎ目で粘膜裂傷がおこり、Mallory-Weiss症候群(マロリー・ワイス症候群)が起こり、血液が交じることがあるため、嘔吐回数も重要です。また黒色便(タール便)という真っ黒な便がでることがあります。一方で血便(鮮血便:赤い便)は見られないことが多いです。

特に高齢者の場合、下痢が実は黒色便/血便であったり、色について聞いてもはっきりしないこともあります。その場合には直腸診を面倒臭がらずに行いましょう。簡便で情報量が多いです。

Dr.シェパード

便の色は胆汁が変化してる茶色になります。一方で血液が混じれば当然赤色になりますが、胃や十二指腸からの出血では4-5mある小腸、身長程の長さの大腸を通り外に出ます。血液中の鉄分が胃酸などの影響で酸化し鉄錆色=黒色に変わります。胃や十二指腸潰瘍出血で赤い便は相当な勢いで出血していないと起こり得ないわけです。

検査

確定診断には胃カメラ検査(上部消化管内視鏡検査)が必要です。補助としては採血検査で貧血(赤血球やヘモグロビンなど)や出血を類推できる尿素窒素などをみます。また画像検査としてCT検査で胃内の貯留物をみたり、類似した症状がある胆嚢炎や胆管炎、膵炎、消化管穿孔など他の病気を調べます。

Dr.シェパード

潰瘍はサイズが大きければCTやレントゲンで類推できますが大半はわからないです。レントゲンは別記の消化管穿孔を判別する一助にはなりますが潰瘍診断には必須ではありません。

緊急内視鏡の適応があるかを判定する基準としてGlasgow Blatchford Score(GBS)があり重要(Oliver Blatchford, et al. Lancet. 2000; 356(9238): 1318-21やStanley AJ, et al. BMJ. 2017; 356: i6432)とされます。他にもRockall scoreやAIM 65、日本人を対象としたコホートでSimle score(飯野)も提唱されていますが一番はGlasgow Blatchford Scoreですからまずはこの名前を覚えておきましょう。

Glasgow Blatchford Score
Simple Score

また一度胃潰瘍や十二指腸潰瘍を発症した場合、ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori/H. pylori)のチェックをします。H. Pyloriがいるようであれば除菌治療を行いますが、治療時期は潰瘍の程度によります。

<ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori, H. pylori)除菌療法について>

一般的なイメージの潰瘍では良性の潰瘍をイメージしますが、専門的には悪性腫瘍による潰瘍(胃がん、十二指腸がん、悪性リンパ腫、転移性腫瘍など)が鑑別となるため、生検で一部組織を採取して病理検査に提出し判別します。生検のタイミングは状態によりますが一度は行うことが推奨されます。

また出血による貧血などが疑われるのに胃カメラ、大腸カメラで病変がはっきりしない場合は小腸潰瘍(小腸腫瘍も鑑別)を考え、カプセル内視鏡や小腸内視鏡(シングルバルーン/ダブルバルーン内視鏡)を行うこともあります。

治療

治療は腹痛などで発症して見つかる場合と潰瘍出血の場合とで重症度が変わります。

基本戦略

胃潰瘍および十二指腸潰瘍は攻撃因子である胃酸を抑えることで治療を行います。PPI(プロトンポンプインヒビター)、P-CAB(イオン拮抗型アシッドブロッカー)を用います。最終的な効果には違いはないかもしれませんですが、P-CABは作用発現までが早いこと、胃酸分泌抑制効果が強いこと、代謝による個人差がないことなどから現時点での第1選択です。PPIの使い分けに関してはこちら

またH. pylori除菌は先に行っても構いません。PPI/P-CAB単独群と除菌単独群とで潰瘍の治癒率に差はなかったとの報告があります。一方でPPI先行後にP-CABレジメンでのH. pylori除菌は成功率が下がるとも報告があり注意が必要です。15mm以上の潰瘍ではH. pylori除菌単独群で潰瘍治癒率がPPI/P-CAB単独群より低いためPPIまたはP-CABでの継続治療が勧められています。

Dr.シェパード

入院中に行うとDPCの包括算定の問題で治療費に関して病院収益との兼ね合いが僅かですが出てしまうかもしれません。逆にいえば潰瘍自体の治療成功率に差がないのであれば外来でH. pylori除菌を行っても構わないということですね。

胃酸分泌抑制効果に関して従来のPPIが胃酸による活性を受けて効果発現するため数日かかるのに対してP-CABは数時間ほどと言われます。代謝に関してはCYP2C19の遺伝子多型が胃酸分泌抑制効果に差を生みます。詳細はクロピドグレルとPPIの関連で。

しかしP-CABは内服のみしか執筆時点ではないため、止血処置を要するような重度の潰瘍で食事を止める場合はPPIの静注または点滴を用います。

P-CABや点滴の問題点としては薬価が高いことがあります。高額な治療薬が増える中で抑えられるところは抑える意識は大事なことです。

上部消化管出血の場合

上部消化管出血としての発症であれば入院治療が必要です。他の貧血がないなど全身状態良好である場合には内服で治療し外来通院のみで十分な場合が多いです。

内視鏡で見た際にドクドクと出てくるような出血がある場合、潰瘍底に露出血管を認める場合には内視鏡的止血治療が有効であり、クリップ法や凝固法(高周波凝固やマイクロ波凝固、ソフト凝固、アルゴンプラズマ凝固など)、薬剤局注法(エタノールやHSEなど)などが用いられ、それぞれに止血効果は同等とされています。実際には潰瘍部位は組織が固くクリップ付着が難しいこともあり、まず凝固法を用いて止まらない場合にクリップ法、出血の勢いが良く視野が確保できない場合に薬剤局注法で出血の勢いを弱め、クリップを行うなど臨機応変に対応します。

Dr.シェパード

クリップにはショート・ミドル・ロングがあります。簡単にいうと挟む柄の長さなんですが、把持できる範囲の違い以外に把持力の差が僅かですがあります。ショートのほうが把持力が高く、潰瘍など硬い組織に有効で、逆にロングはやや弱いですが範囲が広いことが有効な場合もあります。状況に応じて使い分けられるとプロですね。

そして治療後はセカンドルックを検討します。

Dr.シェパード

ガイドラインでは積極的なセカンドルックは再出血率の高い症例に限るとしています。潰瘍に明らかな出血があり止血治療した場合、血行動態が不安定なほどの場合、潰瘍が2cm以上には積極的にセカンドルックを行うとされますが、現在勤めているところでは結局は止血処置を行った殆どの症例で行うことが多いです。みなさんの施設ではどうでしょうか。

結局は出血していた潰瘍では食事による刺激が再出血を誘発する可能性があり、食事止めで見ます。それ以外は食事を食べながら内服薬で治療を行います。そして食事再開時期を安心して決めるためにセカンドルックは必要とすることが多い印象です。

内視鏡的止血困難例ではIVR(Interventional radiology)や外科手術を考慮していきます。侵襲度からはIVRから検討されますが血管治療の技術者が必要です。IVRは手術と同等の結果であり推奨されています。

食事再開して翌日くらいから内服治療に変更していき、普通の食事相当まで食事を上げたら内服治療を続けて退院となります。

忘れては行けないのが悪性腫瘍の可能性もあることです。十二指腸では稀ですが胃の場合には悪性腫瘍による潰瘍性病変で出血することがあり、生検を1度は行うことが推奨されます。私はセカンドルックでおこなわなかった場合は内服治療終了時点の2ヶ月後くらいを目安に再検査を行っています。行った場合は内視鏡所見や結果から2ヶ月の早期(P-CABでの治療終了時期)から少なくとも半年後でのフォローを行っています。

退院後の外来などでは必ずH. pylori検査および治療、悪性腫瘍による潰瘍性病変の可能性の検索を忘れずに行います。NSAIDsを常用せざるをえない場合などには必ずP-CAB、PPIの内服を行うように指導しましょう。

Dr.シェパード

P-CABは特に再発抑制効果が高いのか内服している方で再発して再来することは少ないように思います。

まとめ

  • 消化性潰瘍の原因として多いのはヘリコバクター・ピロリ菌解熱鎮痛薬のNSAIDsや抗血小板薬のアスピリンなどがある。問診が重要!
  • 胃潰瘍では食後に、十二指腸潰瘍では空腹時にみぞおちあたりの痛みが増強することが典型的
  • 便の色がコールタール色(真っ黒)の黒色便がでると出血性潰瘍を疑わせる
  • 診断は上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で止血処置などを行うことも可能
  • 基本治療はPPI/P-CABの内服または点滴治療とH. pylori除菌治療である
  • 上部消化管出血の場合には内視鏡的治療を行う。セカンドルックは潰瘍の状況に応じて行う
  • 必ず悪性腫瘍の可能性は忘れない
  • リスク要因がある場合はPPI/P-CABの継続を必ず行う

以上が消化性潰瘍についての解説になります。皆様の日々の診療に役立つことを願います。

情報の多寡もあるかもしれませんので、随時更新していきます。

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この記事を書いた人

首都圏で消化器内科医として臨床に携わり、消化器内科や医学一般について、医療者の生活についてなどの情報を発信しています。

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