はじめに
「夜勤明け、足が重すぎてナースシューズが入らない…」
「帰り道、足を引きずるようにして歩いている」
「仮眠をとっても、足のだるさで目が覚めてしまう」
毎日、患者さんの命と向き合う現場で、あなた自身の足は悲鳴を上げていませんか?
公益社団法人日本看護協会の調査によると、一般病棟に勤務する看護職員の月平均夜勤時間は約67.6時間。その過酷な勤務の中で、約85%もの医療従事者が「毎日ヘトヘトでだるさが取れない」と感じており、身体的な悩みの第2位に「足のむくみ」がランクインしています。
しかし、驚くべきことに、これだけ多くの人が悩んでいるにもかかわらず、医学的に正しい「着圧ソックス(弾性ストッキング)」を選び、適切に対策できている人はわずか13%に過ぎないというデータもあります。多くの人が、ただの「きつい靴下」を選んでしまったり、逆に血流を止めてしまうような間違った着用方法を続けていたりするのが現状です。
「マッサージや足上げだけでは、もう追いつかない」
そう感じているあなたに必要なのは、気合や根性ではなく、生理学に基づいた「物理的な介入」です。
本記事では、医療従事者の下肢浮腫のメカニズムを解き明かし、「医療用」「一般用」、そして最も重要な「昼用」と「夜用」の使い分けについて、エビデンスベースで徹底解説します。明日から、あなたの足を守る「最強の装備」を、迷いなく選べるようになることをお約束します。
Ns.うさぎ私も夜寝るときには着圧ソックスを必ず着用しないと、痛みがあって支障が出るくらいでした。生活必需品です!


セクション1: なぜ医療従事者の足は「限界」を迎えるのか?
医療現場という「過酷な戦場」
まず、敵を知ることから始めましょう。なぜ、他の職種と比べても医療従事者の足のむくみはこれほどまでに深刻なのでしょうか。その答えは、医療現場特有の「動き」と「時間」にあります。
日本の急性期病棟や救急外来における勤務実態は、労働生理学的に見ても極めて過酷です。二交代制を採用している医療機関の63.1%で、一回の拘束時間が16時間を超えています。これは、起きている時間のほぼ全てを、強いストレスと重力負荷の中で過ごしていることを意味します。
「静的立位」の恐怖:筋ポンプの完全停止
「結構歩き回っているから、運動不足ではないはず」
そう思うかもしれません。しかし、問題なのは歩行量ではなく、「静的立位(じっと立っている時間)」の長さです。
- 手術室での器械出しや介助
- 長時間のバイタル測定や処置
- 回診時のベッドサイドでの待機
- ナースステーションでの立ったままの記録入力
この「動かずに立っている」瞬間こそが、足にとって最も危険な時間です。
通常、私たちの血液は「ふくらはぎの筋ポンプ作用」によって、重力に逆らって心臓へと押し戻されます。筋肉が収縮・弛緩することで静脈を圧迫し、弁を開閉させて血液を汲み上げるのです。
しかし、静的立位ではこのポンプが完全に停止します。心臓から足先までの距離分の「水柱圧」が静脈にのしかかり、逃げ場を失った水分が血管外(組織間隙)へと強制的に押し出されます。これが「むくみ」の正体です。マッサージや足上げは、あくまで「溜まった後の処理」であり、勤務中の「溜まり続けるプロセス」を止めることはできません。
夜勤の罠:自律神経と静脈弁の破壊
さらに追い打ちをかけるのが「夜勤」です。人間の体は本来、夜になると副交感神経が優位になり、血管が拡張してリラックスモードに入ります。しかし、夜勤中はずっと交感神経が興奮状態にあり、末梢血管は収縮し続けています。
加えて、16時間以上も高い静脈圧にさらされ続けることで、静脈の逆流を防ぐ「静脈弁」には甚大な負荷がかかります。
「むくみを放置すると、静脈瘤になる」
これは決して脅しではありません。高圧状態が続けば、弁は物理的に破損し、一度壊れた弁は二度と元には戻りません。これが「慢性静脈不全症」への入り口であり、悪循環(Vicious Cycle)の始まりなのです。
- 長時間立つことで静脈圧が上昇する
- 静脈が拡張し、弁が閉じなくなる
- 血液が逆流し、さらに圧力が上がる
- 水分が漏れ出し、組織がむくむ
- 組織圧が上がり、微少循環障害が起きる
- 痛み、だるさ、足のつりでパフォーマンスが低下する
このサイクルを断ち切るには、意志の力では不可能です。物理的に血管を外側から圧迫し、弁の働きを助ける「外部サポート」が不可欠なのです。


セクション2: 「医療用」vs「一般用」決定的な違いと選び方
ドラッグストアに行けば、「むくみ解消」「スッキリ美脚」と書かれたソックスが山のように並んでいます。しかし、医療従事者であるあなたが選ぶべき基準は、パッケージのキャッチコピーではありません。「スペック(性能)」です。
定義の違い:クラスIか、雑貨か
着圧ソックスには、大きく分けて2つのカテゴリーが存在します。
医療用弾性ストッキング(一般医療機器)
- 分類: クラスI(不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが極めて低いと考えられるもの)
- 目的: 静脈還流の促進、血栓予防、リンパ浮腫の軽減
- 特徴: 薬機法に基づき、製造販売の届け出が必要。足首の圧力を100%とし、ふくらはぎ、太ももへと向かって圧力が弱くなる「段階的圧迫設計」が厳密に管理されている。
- メカニズム: 単に締め付けるのではなく、表在静脈を圧迫して深部静脈への血流を誘導し、血流速度を上げることが証明されている。
一般用着圧ソックス
- 分類: 衣料品(雑貨)
- 目的: むくみの軽減、細見え効果、リラックス
- 特徴: メーカー独自の基準で作られており、圧力の精度や段階設計は製品によってバラつきがある。
- メカニズム: 主に皮膚表面への圧迫感覚による快適性を重視。
「医療用だから良い」「一般用だからダメ」という単純な話ではありません。しかし、慢性的な疲労や静脈瘤予防を目的とするならば、圧力設計が保証されている「一般医療機器」の届出がある製品を選ぶのが確実な選択です。
圧力の単位:mmHgとhPaを読み解く
製品選びで最も混乱するのが、圧力の単位です。医療現場では血圧などで馴染みのある「mmHg(ミリメートル水銀柱)」が使われますが、一般商品では国際単位系の「hPa(ヘクトパスカル)」が記載されていることが多いです。
ざっくり言えば、「mmHgの数値は、hPaよりも小さい」と覚えておいてください。
例えば、医療従事者が勤務中に必要とする標準的な圧力は「20〜30 mmHg」ですが、これをhPaに換算すると「約27〜40 hPa」となります。
「30hPaの製品を買ったのに、30mmHgの医療用より緩く感じる」というのは、単位の違いによる錯覚です。パッケージ裏面の数値を必ず確認し、同一基準で比較する癖をつけましょう。


セクション3: 最重要!「昼用」と「夜用」の絶対的な使い分け
ここが本記事で最も伝えたいポイントです。
多くの医療従事者が、着圧ソックスで失敗し、逆に足を痛めてしまう最大の原因は、「昼用」と「夜用」の混同にあります。
重力との戦い方は「姿勢」で変わる
あなたが「立っている時(昼・勤務中)」と「寝ている時(夜・就寝中)」では、足にかかる静脈圧が全く異なります。
昼(立位): 心臓との高低差が1メートル以上あり、強烈な水柱圧がかかる。
- 必要な対策: 重力に負けないための「強い圧迫(外壁)」が必要。筋肉を外側からギュッと固めることで、少ない筋収縮でも効率よく血液を上へ押し上げられるようにする。
- 推奨圧力: 20〜30 mmHg(中圧)
夜(臥位): 足と心臓の高さが同じになり、静脈圧は自然に下がる。
- 必要な対策: 強い圧迫は不要。むしろ、リンパの流れを阻害しない程度の「優しいサポート」が必要。
- 推奨圧力: 10〜15 mmHg(低圧)
「やってはいけない」危険な勘違い
「昼用の強いソックスを履いたまま寝れば、もっとむくみが取れるはず」
これは絶対にNGです。
寝ている状態で強い圧迫(20mmHg以上)を加え続けると、静脈だけでなく、酸素を運ぶ「動脈」の血流まで阻害してしまう恐れがあります。結果として、朝起きた時に足がしびれていたり、指先が冷たくなっていたり、最悪の場合は神経障害を引き起こすこともあります。
夜勤の仮眠時間も同様です。2時間程度の仮眠をとる際、わざわざソックスを履き替えるのは現実的ではないかもしれませんが、もし締め付けが苦しいと感じたら、それは「体が危険を知らせているサイン」です。その場合は無理せず脱ぐか、足首まで下げて解放してあげてください。
形状の選択:ハイソックス一択の理由
着圧ソックスには「ハイソックス(膝下)」「ニーハイ(太もも)」「ストッキング/タイツ」の3種類がありますが、医療現場での実用性を考えると、「ハイソックス(膝下)」がベストです。
- ニーハイの弱点: 激しく動き回る病棟業務では、太ももの部分がくるくると丸まって下がってきます。丸まった部分はゴムのように食い込み、そこが「止血帯」となって血流を止めてしまうため、逆効果になりがちです。
- タイツの弱点: トイレのたびに着脱が大変な上、空調の効いた院内とはいえ、夏場の入浴介助などでは蒸れが深刻です。股関節周りの圧迫が強すぎると、リンパ節の流れを阻害するリスクもあります。
まずは「膝下のポンプ機能」を確実にサポートするハイソックスタイプから始めましょう。


セクション4: 現場で選ばれている「最強ブランド」比較
理論が分かったところで、具体的な製品選びに移ります。ここでは、医療現場で実際に愛用者が多く、医学的な信頼性が高い3大ブランドを紹介します。
1. アンシルク(アルケア):日本人のための「王道」
「迷ったらこれを買っておけば間違いない」と言えるのが、日本の医療メーカー・アルケア社の「アンシルク(Ansilk)」シリーズです。
最大の特徴は、日本人の体型データに基づいて設計されていること。海外ブランドの製品は、欧米人の足の長さに合わせているため、小柄な日本人だと膝裏に生地が余って食い込むことがありますが、アンシルクはその心配がありません。
- アンシルク・2(中圧 / 27hPa / 20mmHg)
- 看護師の愛用率No.1。しっかりとした圧迫感があり、「夜勤明けの足の太さが全然違う」と評判です。生地も厚手で耐久性があり、ガシガシ洗濯しても半年以上持ちます。
- アンシルク・3(強圧 / 40hPa / 30mmHg)
- すでに静脈瘤の診断を受けている人や、アンシルク・2では物足りない強靭な足を持つ人向け。非常に硬いため、着脱には慣れが必要です。
2. ジョブスト(BSN medical):世界標準の「医療品質」
ドイツ生まれの「ジョブスト(JOBST)」は、世界のリンパ浮腫治療をリードするトップブランドです。その特徴は、圧倒的な圧力精度の高さとサイズ展開の豊富さです。
- ウルトラシアー
- 医療用とは思えないほどの「薄さ」と「透明感」を実現しています。クリニック勤務や、白衣の下でも目立たせたくない人に最適です。薄くても圧力は医療クラスで、非常に強力です。
- オペーク
- 厚手で透けないタイプ。耐久性は最強クラスで、どんなにハードな動きでも破れる気がしません。価格はやや高めですが、「一度履くと他の製品には戻れない」というコアなファンが多いブランドです。
3. メディキュット・スリムウォーク:手軽さと「夜用」の正解
ドラッグストアで買える一般用ブランドも、進化しています。特にレキットベンキーザー社の「メディキュット」は、初期導入や「夜用」の選択肢として優秀です。
- メディカル・リンパケア(一般医療機器)
- ブラックのハイソックスタイプは、アンシルクにも引けを取らない高圧力設計(34hPa前後)で、かつ入手しやすいのがメリットです。
- 寝ながらメディキュット
- 夜用の決定版です。就寝時に最適な低圧設計(21hPa/16hPa程度)になっており、素材も柔らかいパイル地などが使われています。「履いて寝る」ケアをするなら、必ずこの専用設計を選んでください。
セクション5: 「痛い・痒い・効果がない」を防ぐ実践テクニック
「せっかく高いソックスを買ったのに、痛くて履かなくなった」
こうした失敗を防ぐために、購入前に知っておくべき3つのテクニックを伝授します。
1. 命取りになるサイズ選び:靴のサイズは忘れよう
着圧ソックスを選ぶ時、絶対にやってはいけないのが「靴のサイズ(23.5cmなど)」だけで選ぶことです。
着圧ソックスの機能は、足首とふくらはぎに適切な圧をかけることです。足の大きさは関係ありません。
必ずメジャーを用意し、以下の2点を測ってください。
- 足首の最も細い部分の周囲
- ふくらはぎの最も太い部分の周囲
測るタイミングは、「朝起きてすぐ(むくむ前)」がベストです。
もし、足首とふくらはぎでサイズがまたがってしまった場合(例:足首はMサイズ相当だが、ふくらはぎはLサイズ相当)、アンシルクなどの医療用メーカーは「足首のサイズを優先する」ことを推奨しています。最大の圧力がかかる足首がフィットしていないと、ポンプ効果が得られないからです。
2. 正しい履き方:「裏返し装着法」をマスターせよ
医療用ソックスは非常に硬く、普通の靴下のように足先からギュウギュウ引っ張り上げるのは不可能です。無理に引っ張ると、爪で穴が開いたり、皮膚が擦れて赤くなったりします。
プロが実践する「裏返し装着法(ヒーリング・オフ)」を覚えましょう。
- ソックスの中に手を入れ、かかとの部分を内側からつまみます。
- つまんだまま、ソックスを裏返して引き抜きます(つま先部分だけ表に残る状態)。
- 足を入れ、つま先とかかとの位置を完璧に合わせます。
- 裏返っている部分を、少しずつ表に返しながら足首、ふくらはぎへと上げていきます。
- 重要: 最後に膝下まで上げたら、シワがないように手のひらでなじませます。膝下のゴムを折り返すのは厳禁です!
3. スキンケアと洗濯:痒みとの戦い
着圧ソックスは肌に密着するため、どうしても乾燥や痒みが出やすくなります。
化学繊維(ナイロン・ポリウレタン)が合わない人は、「綿(コットン)混」のタイプ(アンシルク・2 ブライトなど)を選んでください。
また、洗濯の際は「柔軟剤」を使用しないでください。柔軟剤に含まれるコーティング成分が、伸縮素材(ポリウレタン)の繊維を劣化させ、着圧力を弱めてしまうからです。必ず洗濯ネットに入れ、通常の洗剤のみで洗うことが、1足を長持ちさせる秘訣です。
セクション6: 知っておくべきリスクと禁忌
着圧ソックスは、使い方を間違えれば凶器にもなります。以下の症状がある場合は、自己判断で使用してはいけません。
- 重度の動脈血行障害(閉塞性動脈硬化症など): 足の動脈が詰まっている状態で圧迫すると、血流が完全に止まり、足が壊死する危険があります。足が冷たくて色が悪い人は要注意です。
- うっ血性心不全: 弱った心臓に、足から大量の血液を一気に戻すと、心臓のポンプ機能がパンクし、心不全が悪化する恐れがあります。
- 化膿性静脈炎: 感染を起こしている部位を圧迫すると、細菌を全身に散らばらせてしまうリスクがあります。
- 糖尿病: 神経障害がある場合、靴擦れや締め付けの痛みに気づかず、そこから潰瘍(穴が開く)になることがあります。毎日、足の皮膚状態を観察してください。
違和感を感じたら、すぐに使用を中止し、医師や専門の看護師(皮膚・排泄ケア認定看護師など)に相談してください。
結論 & アクションプラン
医療従事者にとって、着圧ソックスは単なるファッションアイテムでも、気休めのグッズでもありません。それは、過酷な勤務環境からあなた自身の身体を守る、マスクや手袋と同じ「個人用防護具(PPE)」です。
自分の足を大切にすることは、長く仕事を続け、質の高い看護・医療を提供するためのプロフェッショナルな責任でもあります。
今日からできるアクションリスト:
- 明日起きたら、まずメジャーで計測する: 「足首」と「ふくらはぎ」の周囲を測り、メモしてください。
- 今あるソックスを仕分ける: 手持ちのソックスが「昼用(高圧)」か「夜用(低圧)」か確認し、使い分けを開始してください。
- 最初の一足を選ぶ: 初めてなら「アンシルク・2」や「ジョブスト・ウルトラシアー」のクラスII(中圧)から試してみてください。
- 「裏返し履き」を練習する: 朝の忙しい時間でもスムーズに履けるよう、一度練習してみましょう。
あなたの足が軽くなれば、フットワークも軽くなり、きっと患者さんへの笑顔も増えるはずです。まずは自分自身を、最高のケアで癒やしてあげてください。
参考資料・出典
- 公益社団法人日本看護協会 「2022年 病院看護実態調査」
- 一般社団法人日本静脈学会 「弾性ストッキング・圧迫療法 コンセンサス」
- アルケア株式会社 アンシルク添付文書
- テルモ株式会社 ジョブスト添付文書
- 厚生労働省 一般医療機器届出情報
記事情報
- 想定文字数: 約 6,200文字
- 推定読了時間: 10〜12分








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