論文紹介:無症候者に対する唾液による新型コロナウイルスPCR検査は正確性が劣る

こんにちは、Dr.シェパード (@dr-shepherd-ns-rabbit) です。

本日は木曜日ということで論文紹介です。

Dr.シェパード

消化器系の論文の少なさに嘆く木曜日です・・・

今回は当初新型コロナウイルスに対する検査が鼻咽頭ぬぐいでの検査のみで検査者が被曝リスクがどうしてもありました。

そしてその後の研究で唾液でも正確性が同等であるとの結果があり(Babady NE. The Journal of Molecular Diagnostics. 2021. Jan 23: 3-9など)、流行期には唾液での検査がメインになりました。

それにより、医療者の被曝も減りクラスター発生がそこまで多くなかった助けになったのではとも思います。

しかし、有症候者での診断目的では同等かもしれませんが、無症候者で正確性がどこまであるのかは不明瞭でした。

私の務める病院では入院後患者さんにSARS-CoV-2患者が出ることもあることから、唾液PCRでの追跡検査を行っています。

今回、JAMA誌オンライン版2021年8月13日号Research Letterに報告がありました。

目次

Research Letter

Methods

2020年6月17日から2021年2月15日の間に、RT-PCRでSARS-CoV-2が確認された家族に2週間以内に曝露された人(濃厚接触者)の便宜的なサンプルを、ロサンゼルス小児病院と近隣のコミュニティテストサイトから募集し、Household Exposure and Respiratory Virus Transmission and Immunity Study(HEARTS)を実施した。3~7日ごとに、最長4週間、または鼻咽頭検査で2回陰性となるまで、鼻咽頭と唾液のペアサンプルを採取した。SARS-CoV-2のN1およびN2遺伝子のRT-PCRを実施し、サイクル閾値が40未満であれば陽性とし、鼻咽頭のN1サイクル閾値が34以下の場合、ウイルス量が多いと定義されました詳細な検体採取法とRT-PCR法は、SupplementのeMethodsに記載されている。

唾液の感度は、上咽頭陽性のRT-PCRを参照基準として算出した。COVID-19の発症は、最初の症状(毎日のアンケートで収集)と最初のRT-PCR陽性の間の早い方の日付と定義した。症状が出る前と後は、それぞれ症状が出る前と後の無症状の時点と定義した。採取した週ごとの唾液感度、および症状のある人とない人の間の唾液感度を、χ2 検定またはフィッシャー正確検定を用いて比較した。一般化推定方程式を用いて、同一人物からの反復サンプルを考慮しつつ、上咽頭陽性ペアの唾液感度に関連する臨床的特徴(Table)を決定した。解析にはSPSS Version 27.0(IBM Corp)を使用し,2辺P<0.05を有意とした.参加者からは書面によるインフォームド・コンセントを得た。本研究は、ロサンゼルス小児病院の機関審査委員会によって承認された。

Results

404名の参加者から得られた889件の鼻咽頭スワブ-唾液のペア検体を検査した結果、524件の鼻咽頭(58.9%)と318件の唾液(35.7%)からSARS-CoV-2が検出された。258組(29.0%)では両方の検体からSARS-CoV-2が検出された。上咽頭のSARS-CoV-2陽性者256人(63.4%)の平均年齢は28.2歳(範囲、3.0~84.5)、男性は108人(42.2%)だった。参加者のうち93人(36.3%)は感染期間中無症状で、163人の有症者のうち126人(77.3%)は重症度が軽いと回答した。

唾液の感度は感染した最初の週に採取したサンプルで71.2%(95%CI,62.6%~78.8%)と最も高かったが、その後は週を追うごとに低下した(Figure A)。感染第1週目の検体採取日にCOVID-19関連の症状を呈していた参加者は、無症状の参加者に比べて唾液の感度が有意に高かった(88.2%[95%CI,77.6%~95.1%]対58.2%[95%CI,46.3%~69.5%],P < 0.001)。唾液の感度は、2週目も有症者で有意に高かった(83.0%[95%CI,70.6%~91.8%]対52.6%[95%CI,42.6%~62.5%]);P < 0.001)。COVID-19発症後2週間以上経過しても差は見られなかった(図、B)。感度は非症候性(34.7%[95%CI,27.3~42.7%])、症候性前(57.1%[95%CI,31.7~80.2%])、症候性後(42.9%[95%CI,36.8~49.1%])の各時点で有意な差はなかった(P=0.26)。

COVID-19発症後1日ごとに、唾液検出のオッズ比は前日と比較して0.94(95%CI,0.91-0.96)となった(P<0.001)(Table)。検体採取時にCOVID-19関連の症状を呈していた参加者や、鼻咽頭ウイルス量が多かった参加者は、無症状の参加者や鼻咽頭ウイルス量が少なかった参加者と比較して、唾液陽性のRT-PCR結果が得られる確率がそれぞれ2.8(95% CI, 1.6-5.1; P < 0.001)、5.2(95% CI, 2.9-9.3; P < 0.001)高かった

Discussion

症状のある人のSARS-CoV-2の検出には、感染初期の数週間は唾液の感度が高かったが、無症候性SARS-CoV-2キャリアの感度はすべての時点で60%未満であった。職場、学校、その他の共有スペースにおけるCOVID-19検査戦略を最適化する際には、無症候性感染における唾液の低感度を考慮する必要がある。本研究は唾液ベースのRT-PCRを無症候性COVID-19スクリーニングに使用すべきではないことを示唆している。

この研究には限界がある。サンプルは家庭内暴露後に採取されたため、検査前確率が高かった。鼻咽頭ぬぐい液検査が基準となっているが、これは SARS-CoV-2 感染症の完全な検査ではなく、感染から 10 日以上経過したサンプルから得られた RT-PCR の陽性結果は、ウイルスの複製や感染性を予測するものではない可能性がある。

コメント

唾液でのPCR検査の感度は確かに低めだろうなという印象が陰性でも肺炎像を呈する症例などよく見るため、ありました。

感度が60%未満となると、無症候者での検出の戦略にかなり粗が出る可能性があり、繰り返しの検査がどこまで効果があるかも疑問になってくる精度です。

Dr.シェパード

スクリーニングとしての方法は考え直す必要があるかもしれません。

しかし医療者の被曝や検査手技の煩雑さ、苦痛も考えると唾液PCR検査の簡便性にまさるものはなく、安易に変更するのも難しいです。

今後の報告が待たれる結果です。

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この記事を書いた人

首都圏で消化器内科医として臨床に携わり、消化器内科や医学一般について、医療者の生活についてなどの情報を発信しています。

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