アニサキスという日本人と切っては切れない仲の寄生虫

こんにちは、Dr.シェパード (@dr-shepherd-ns-rabbit) です。

今回はアニサキス症について解説していきます。

というのも、魚の切り身からアニサキスを死滅させつつ食感は生に近い状態ということで今後期待される技術が発表されたのもあって普及されれば減ることもあるかもと期待があります。

熊本大学産業マテリアル研究所などの共同開発により開発されました(https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/sizen/20210622)。

そんなアニサキス症に苦しめられた人も多いのでは無いでしょうか、飲食店などによっては一定期間の業務停止となることもありますので、注意が必要です。

Dr.シェパード

魚介類の生食文化のある日本人にとっては切っても切れない関係、実際に噛み切れないアニサキスについてです。敵を知り己を知れば百戦危うからずです(孫子)!

目次

ポイント

  1. アニサキス症は宿主となっている魚介類を食べることで起きる腹痛などを特徴とした寄生虫疾患
  2. リスクとなる魚介類サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、タイ、イカなどで魚介類が死亡した後に時間が経過すると内臓から筋肉内に移動する。
  3. 確実な予防方法は加熱と冷凍処理のみで他の方法(よく噛む、細く切る、酢〆、わさび、塩、醤油)は効果不明か無効。
  4. 魚介類や青魚アレルギーの一部の要因になっているかもしれないので気になるならアレルギー検査を
  5. 症状の原因はアレルギー反応がメインと考えられており、刺さるだけでは疼痛は出ない可能性が高い
  6. 症状は摂食後数時間で発症する心窩部痛(みぞおちの痛み)、嘔気、嘔吐など
  7. 治療は内視鏡(胃カメラ)的摘除や補助的に抗アレルギー薬や胃薬などを使用する
  8. 一度発症した方は要注意

そもそもアニサキスとは

ニサキスはイルカやクジラなどの海洋大型哺乳類を終宿主としてその胃内に寄生しています。そしてそれらの糞から卵が海中に排出され孵化した幼虫がオキアミなどの甲殻類に食べられ、それを魚介類が食べると幼虫のまま寄生を続け、海中哺乳類が食べることで成虫になるという自然史をたどります。そして幼虫のまま保有している魚介類をヒトが食べることで幼虫が胃や腸に刺さり発症するのがアニサキス症になります。

幼虫は長さ2-3cm、幅0.5-1mmの白色のやや透明な糸状です。

寄生している魚介類が死亡し、時間が経過すると筋肉内に移動し、それを刺身で食べたりすることで感染します。

多いとされる魚介類はサバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、タイ、イカなどですので特に注意が必要です。

Dr.シェパード

自然史を考えるとオキアミなどを食べる必要のない完全養殖魚など人の手が入っている魚介類はリスクはないと言えますね。海で接触する可能性があればリスクはあります。

アニサキス症について

アニサキス症は発症する部位がいくつかあります。有名なのが胃アニサキス症で、他に腸アニサキス症、腸管外アニサキス症があり、関連する症状としてアニサキスアレルギーがあります。

いずれの病態もアニサキスに対するアレルギー反応が原因とされており、胃や腸での浮腫(むくみ)などが痛みの原因となります。症状が強く出た方は劇症型アニサキス症に分類され、それ以前に無症候型アニサキス症を経験していて、その時に感作され体が反応するようになると劇症型になると考えられています。実際に無症候型として健康診断などで胃カメラを行った際に偶発的に見つかることがあります。

胃アニサキス症は原因となる魚介類摂食後数時間で発症する激しい上腹部痛、嘔気・嘔吐などを認めます。治療は内視鏡的摘除です(内視鏡的異物摘出術:医療点数は3250点: 10割で32500円の加算)。1隻だけでないことも多く、1隻いたら2隻以上疑えが基本です。摘除後に速やかに症状は改善しますが必要に応じてアレルギー薬や胃薬を使用します。

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ちなみにアニサキスの数え方は”匹(ひき)”ではなく”隻(せき)”です。

腸アニサキス症原因となる魚介類摂食後数時間から数日後に発症する間欠的な腹痛などの症状を認めます。腹水や腹膜炎、腸閉塞や腸穿孔などを起こすことがあります。多くは回腸末端部に生じる事が多く、CT検査で限局性の浮腫性壁肥厚と病歴から診断をつける事ができます。治療は抗アレルギー薬などの対症療法または手術や内視鏡摘除などが考慮されます。

腸管外アニサキス症非常に稀ですが消化管を穿通して腹腔内に脱出してしまい、肉芽腫を形成することで発症する病態でどこに出たかにより症状の部位が異なります。治療は手術が考慮されます。

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アニサキスによる食中毒を診断した場合は24時間以内に最寄りの保健所に届けること食品衛生法で定められています。

アニサキスアレルギーは青魚を食べた際にアレルギーがでるという病歴がある方の原因となっていることもあり、摂食後に生じる蕁麻疹やアナフィラキシー(血圧低下、呼吸困難感、下痢など腹部症状)を特徴とします。治療はアレルギー治療と同様です。アレルギーでは予防方法としての処理を行っても、存在していたことによる物質でアレルギーを起こすため後述の予防法が効果ありませんので要注意です。

対症療法についてですが、様々な報告がありますが基本病態をアレルギーと考えて治療することが多いです。基本となる抗ヒスタミン薬+ステロイド薬(デカドロン1.65mgで有効との話があります)はどこでも使いやすい治療かと思います。

他に®強力ミノファーゲンシー(グリチルリチン製剤)を40ml投与することも有効であったとも報告があります(山本 馨. 日医大医会誌. 2012; 8: 179-180)。

Dr.シェパード

自験例でも腸アニサキス症で苦しんでいた方が劇的に改善しており、試してみる価値はあります。

そして一度アニサキス症となった方はアニサキスアレルギー検査もご検討ください、今後の摂食による発症リスクを知り予防出来る可能性があります。

予防方法

巷ではまことしやかに言われている噂として「よく噛んで食べればいい」、「細く切ればいい」など物理的に虫体を壊す方法がありますが、効果の程は不明です。噛むだけでは噛み切れないと言われてもいます。

他に酢〆や塩漬け、醤油やわさびなどの加工では虫体は死滅しません

確実な方法が、加熱処理(60℃で1分以上、70℃以上なら瞬時に死滅:中までしっかりと火を通すことが重要で炙りも無効)と冷凍処理(-20℃で24時間以上)です。これらは生魚がすきな日本人としては耐え難い処理方法です・・・笑

そして新たな方法が冒頭で紹介した熊本大学産業マテリアル研究所などの共同開発により開発された「パルスパワー」による処理です。名前がなんだか怪しい(失礼)のですが、簡単に言うと電気エネルギーを蓄積後に瞬間的に取り出し大電流を流すことでアニサキスを殺虫するのだそうです。

実験では3kgのアジの3枚おろしにした片身を約6分間で処理し、品質の劣化もチルド品に近い品質であったようです。まだコスト面でのバランスが取れておらず直ぐ実用化はされないようですが今後に期待がかかります(https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kouhou/pressrelease/2021-file/release210622.pdf)。

おわりに

日本人なら切っても切れない関係にあるアニサキスに関してご紹介しました。

現時点では発症が疑われれば医療機関に受診し内視鏡的処置を行ったり点滴治療などを行うしかありません。

発症した方は予防方法を覚えておいて今後発症しないように気をつける必要があります。

そして近い将来、生食としての品質を下げること無くアニサキスを殺虫する方法が普及かもしれませんので、今後に期待されます。

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この記事を書いた人

首都圏で消化器内科医として臨床に携わり、消化器内科や医学一般について、医療者の生活についてなどの情報を発信しています。

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