こんにちは、Dr.シェパードです。
先日新型コロナウイルス(SARS-CoV-2、COVID-19)に対するファイザー/バイオンテック社によるmRNAワクチン(®コミナティ)を2回接種しました。
そこで実体験なども交えてワクチンについても解説していきます。
ワクチンなどについて解説していますが積極的に接種を推奨するものでも、否定するものでもありません。最終的な判断は個人および主治医の先生などとの話で決めるようにしてください。
追記1(2021/7):WHOより変異株の名称をギリシャ文字を使用した呼び名を使用する方針としましたため、追記で名称を変更していますがわかりやすくカッコ内に記載しています。背景としては特定地域への差別などを避けるためです。
追記2(2021/7):Novavax社製ワクチンの第3相試験の結果が良好であり、実用化される可能性が高まりました。記載していないタイプのワクチンですので追記しました。こちらでも解説しています↓
追記3(2021/7): ワクチン接種にやや気後れされていた方々が懸念していた事項の緊急使用許可であり正式な認可ではないという点が解消される目処が立ち始めました。(https://news.yahoo.co.jp/articles/ecd24d3616138f87d45521643fe460489e747703)
追記4(2021/7): 妊婦への推奨がこの度日本産婦人科学会より提言が再度出たため追記しました。
そもそもウイルスとは
まずウイルスという敵について簡単に解説します。
感染症の原因となる病原微生物は大まかに分けて細菌、ウイルス、真菌(カビ)、寄生虫などがあります。細菌、真菌、寄生虫などは細胞膜をもつが、ウイルスは細胞膜を持たず、ヒトの細胞に侵入して自分のコピーを作らせ増殖していきます。細胞が破裂して次の細胞に入り込み増殖するということを繰り返します。他の細胞生物は基本的にはエネルギー源さえあれば自身で増殖、成長をすることができます。
そしてウイルスのポイントは”ヒトの細胞に侵入して”という部分です。他の細菌などは独立した細胞として増えて問題となるのに対して、ウイルスはヒトの細胞の中で増えて問題となるため、治療が難しいのです。別の細胞であれば、それに特異的な機能だったり構造だったりを対象として攻撃すればヒトの細胞には影響がありません。一方でほぼ同化しているウイルスを攻撃しようとして細胞を壊そうとすればそれはヒトの細胞自体を攻撃することになり副作用が甚大になります。そのためいわゆる抗生物質は細菌に対する薬であり沢山の種類がある一方で、抗ウイルス薬は限られた数しかありません。
ヒトの細胞内で増殖するウイルスに対して対策をたてる場合どうするかという答えが”治療薬”と”ワクチン”です。ウイルスが体内で増える場合に自らのRNAやDNAを複製する際に用いるRNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼといった酵素を対象としたものやDNA合成阻害、逆転写阻害、プロテアーゼ阻害などウイルス自体の増殖を抑えるポイントに応じた治療薬などが開発されていますが、それぞれのウイルスに応じた薬が必要なことが多いことや副作用の面などで難しいことが多いようです。
そこでワクチンの登場です。治療薬は体の中に入ってきてからどうしようというのが目的ですが、ワクチンはウイルスに対して事前に迎撃する機能を身につけ、入ってきても速やかに排除し、増えて問題となる段階に進まないようにさせることが目的です。
そもそもワクチンとは
ワクチンは日本人では乳児の頃からうってきて実は馴染みの深いものです。麻疹、風疹、おたふくかぜ(ムンプス)、水痘(みずぼうそう)、ポリオ、破傷風、日本脳炎、ロタウイルス、B型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルスといったウイルスに対するもの、Hib(ヘモフィルス・インフルエンザ菌b型)や肺炎球菌、結核菌に対するBCGなど細菌に対するものもあります。
ワクチンの始まりと生ワクチン・不活化ワクチン
ワクチンのはじまりは1798年にイギリスのエドワード・ジェンナーが牛の天然痘”牛痘”に感染したものが天然痘の免疫を獲得し罹患しなかったり軽症となることを発見し、種痘法を提唱し効果を確認したことが最初とされる。1度罹患すれば2度めは感染しないという原則が確認されました。そしてルイ・パスツールが病原体を培養後に弱毒化し接種することで免疫を獲得することを発見し、ワクチン製造法を確立しました。
これは後に生ワクチンと呼ばれる手法となります。これにより麻疹や風疹、ムンプス、ポリオ、水痘などのワクチンができましたが、弱毒化しただけなので感染による副反応がみられることが稀にありました。
日本の江戸時代にすでにワクチンの基礎が出ています。
次にわざわざ生きているウイルスを使わずとも、ウイルスの成分を入れるだけで存在を認識して免疫が迎撃できるようにすれば副反応が少なくなるメリットがあると考えられ作られたのが不活化ワクチンでした。インフルエンザウイルスへのワクチンやHibワクチン、肺炎球菌ワクチンなどが作られています。一方で長期間の免疫が得られないことも多く、複数回接種が必要となることが多いこと、また製造するにもウイルスを増やして抽出して作るので製造工程が多く量産するにも時間が必要といったデメリットがありました。
また、その後1970年代にはウイルス自体を注入しなくともウイルスの一部作成して注入、体が認識できさえすれば良いのではということで「遺伝子組み換えワクチン(コンポーネントワクチン、成分ワクチン)」というものが出来ました。ウイルスの一部(表面の蛋白質など)の設計図(遺伝子)を他の細胞(酵母や昆虫細胞、ヒト細胞など)に組み込み、設計図からウイルスの一部を作成してもらって、成分を抽出しワクチンにします。これはB型肝炎ウイルスやヒトパピローマウイルス(HPV)へのワクチンなどに使用されていますが、適切な精製環境を作成するのに工程が多いため非常に手間がかかります。
追記2: 遺伝子組み換えワクチンであるNovavax製のワクチンの第3相試験で十分な有効性が確認されており適応となる可能性が高いです。以下で紹介しています↓
そして時代は次の世代へと移りました。遺伝子工学的技術が応用され、2種類の方法が出てきました。
一つはウイルスベクターワクチン、もう一つがmRNAワクチン(核酸ワクチン)です。
新時代のワクチン①ウイルスベクターワクチン
ウイルスベクターワクチンはウイルスを改変して容器だけにしたベクター(運び屋)をつくり、その中に免疫をつけたいウイルスの構造をコードした部分を入れて輸送してもらい免疫を獲得する手法で、新型コロナウイルスの前にエボラウイルスに対してのワクチンですでに承認されていました。使用するウイルスはアデノウイルスや他にもいくつかあるようです。
新型コロナウイルスワクチンとしてはアストラゼネカの®バキスゼブリアやジョンソン・エンド・ジョンソン/ヤンセンによるワクチン、ロシアの®スプートニクⅤ、中国の®コンビディシアが現在存在しています。様々な報告がある状況ですが、アストラゼネカやジョンソン・エンド・ジョンソン/ヤンセンによるワクチンではHIT(ヘパリン起因性血小板減少症)と類似した病態による血栓や血小板減少が報告されており、みなさんも耳にしたかと思います。詳細は徐々に判明してくるかと思いますが、デンマークではどちらも除外するなどやや風当たりが強い状況です。こちらでも解説しています↓
また、全世界的に猛威を奮っているδ(インド)株に対しても有効性が低い結果であり、最初の最低限の集団免疫獲得には有効ですが今後の有効性には疑問があります。そんな中でアストラゼネカ製ワクチン1回とmRNAワクチン1回を組み合わせる方法も報告されており、これだと明らかに有効性が高くなるため今後ワクチンの組み合わせという新しい方法が取られるかもしれませんし、現在貴重なmRNAワクチンのより有効な活用になるかもしれません(1回目アストラゼネカ製ワクチンを行い2回目にファイザー/バイオンテック社製ワクチンにより十分な免疫応答が得られる:Lancet. 2021; 398: 121-30)。
新時代のワクチン②mRNAワクチン
mRNAワクチン(核酸ワクチン)は最新の技法によるものでウイルスのRNA配列を化学合成し、一部の断片をヒト細胞へ入れることでヒト細胞内で特定のタンパク質が合成され提示されることで免疫反応を誘発します。作製が簡便で量産しやすい特徴があり、モデルナはワクチンの原型をたった2日で作成しています。ヒト細胞内にmRNAを入れることでウイルスが入ったときと同じ状況を作りますが、入れるのはウイルスの一部のみで、ウイルス蛋白を部分的に作らせ認識させることで迎撃準備をさせます。mRNAの不安定性などから速やかに取り込まれたmRNA自体は分解されるとされており製造場所が細胞基質内のためヒトのDNAのある細胞核に入る必要がないため遺伝子に取り込まれるリスクが回避されています。一方ですぐに分解されてしまう不安定性から細胞へとどうやって運ぶかが今まで問題でしたが、医薬の発展により現代で可能となりました(ドラッグ・デリバリー・システム)。しかしワクチン自体の保存法にはやや難が残っています。高い有効性がNEJMに報告されたこと(ファイザー/バイオンテック、モデルナ)と限られた重大な副反応(アナフィラキシーなど)で済んでいることから全世界で広く使われる様になり、最新のイスラエルの状況には驚かされました。
現時点(2021年4月時点)でファイザー/バイオンテックによる®コミナティ、モデルナによるワクチンがあり、コミナティは日本で接種が進んできており、モデルナワクチンに関しては5月中にも承認の可能性があるとのことです。
追記3(2021/7): ワクチン接種にやや気後れされていた方々が懸念していた事項の緊急使用許可であり正式な認可ではないという点が解消される目処が立ち始めました。2022年1月頃という目安ですが優先承認の方針のため年内にも承認される可能性もあります。(https://news.yahoo.co.jp/articles/ecd24d3616138f87d45521643fe460489e747703)
mRNAワクチンの心配点
新しいワクチンということで心配がつきないかと思います。それらについて簡単に載せておきます。詳細は厚生労働省ホームページなどを参照してください。
また「こびナビ(COV-Navi)」というサイトでもワクチンについて正しい情報を提供していますので、心配な方はこちらを参考にしてください。
有効性について
日本でも大変な事になっている変異株に対する有効性ですが、ウイルスの特性によりα(イギリス)株には有効性があるようですがβ(アフリカ)株・γ(ブラジル)株・δ(インド)株に対する有効性はやや落ちたとの報告もあり、対応したワクチンへのアップデートも進めているようです。
作製の簡便性がここに来て非常に利点になっています。
技術の進歩はすごいですね。
副反応について
副反応について、®コミナティの国内の試験結果から抜粋(C4591005試験)しますが、2回目接種後に頻度が高く見られることが多く、注射部位痛(2回目:79.3%)、疲労(2回目:60.3%)、頭痛(2回目:44.0%)、筋肉痛(2回目:16.4%)、悪寒(2回目:45.7%)、関節痛(2回目:25.0%)、発熱(2回目:32.8%)と報告されています。比較的頻度が高い事象が多い一方で数日で良くなるといわれており重篤な副反応は1-3%程度とこちらは低めです。
長期的な副作用
どのワクチンもそうですが、将来的な副作用に関しては不明瞭であるということです。それはどんな新薬にも言えることですから過剰に心配しすぎてもしようがないのですが、若年の方には気になるところです。一方で以前のワクチンで行っていたウイルス断片を入れて自分の中で免疫を誘発するという点は同じであり、長期リスクも以前のワクチンと同様であまり心配いらない可能性もあります(もちろん明確にはなっていないためあくまで予想です)。
妊婦と小児
妊婦や小児への接種の安全性についても執筆時点(2021年4月)では確立はしていません。
妊婦に対しては4月21日にNEJMにワクチン接種を行った妊婦35000人以上の報告で安全性の懸念が増すことはなかったと報告(Tom T Shimabukuro, et al. NEJM. 2021; Apr 21)があり、米国CDCは接種を推奨するとしていますが最終的には個人の判断によるとしています。日本では日本産婦人科学会より提言が出ています(日本産婦人科学会HP)特に妊婦では重症度は同等とされる一方でICU入院リスク増加や人工呼吸器管理増加、死亡率増加の報告がある(John Allotey, et al. BMJ. 2020; Sep 01など)ことなどから、器官形成期(妊娠12週まで)は避けるほうが望ましいかと考えますが、以降の時期において罹患したリスクとワクチン接種によるリスクとを考え、主治医とも相談しながら決めるのが良いでしょう。
(追記4) 日本産婦人科学会より2021年6月17日に妊婦においても安全に接種が可能で妊娠初期を含めて母体と胎児両方を守ることから推奨されるという方針となりました(妊産婦のみなさまへ -新型コロナウイルス(メッセンジャーRNA)ワクチンについて-:日本産婦人科学会HPより)。いずれにせよ主治医との相談が必要ですが、重症化するリスクがわずかに高いため考えるべきでしょう。
そしてパートナーについては接種を積極的に考慮すべきではないかと思います。
小児に対してはファイザー/バイオンテック、モデルナともに治験を開始しており、モデルナは特に12歳未満を対象としており報告が待たれます。
実際に接種してみて
1回目
当日(1日目) 昼頃に打ちました。接種は筋肉注射です。痛みはインフルエンザの予防接種よりも軽いです。インフルエンザは日本では皮下注射で行っているため、違いがあります。夜に寝るとき注射した側を下にして横に寝れませんでした。
2日目 注射した側の腕が三角筋を使う動作(腕を上げるなど)が痛みや脱力感で難しく、水平までは挙げられませんでした。注射した腕と同じ側の首筋がはったような感じの症状もありました。
3日目 腕は挙げられるが、違和感は残りました。首筋の張りが良くなってきましたが、腕と逆側の方にも感じました。関係あるかはわかりませんが歩いたり立っている時間が長いと腰痛がひどくなりました。
4日目 症状は概ね改善しました。発熱などの症状は見られませんでした。
2回目(21日後)
当日(1日目) 同様に昼頃に打ちました。特に問題なく終わり、夜に腕を下にして寝れないのも同じでした。
2日目 日中はあまり変わらず、腕の挙がらない感じは軽く、頑張れば挙げられました。昼頃(ちょうど24時間後くらい)から首筋の張りが目立つ様になり、全身倦怠感もでてきて、夕方くらいから軽い頭痛が出現して、18時ころから微熱(37.5度)、頭痛の増悪、19時くらいに38度を超えて耐えられない頭痛になったためアセトアミノフェン600mgを飲みました。熱は良くなりましたが頭痛が良くならず、吐き気も出てきました。夜ご飯は食べる気が起きず、4時間経過後の23時にもう一度600mgを飲み、頭痛で寝付けないなかで徐々に効いてきて就寝。夜中3時ころにも軽い頭痛で目が覚めてアセトアミノフェン400mgを内服しました。
3日目 頭痛と全身倦怠感、首筋の張りを引きずり、朝8時にもアセトアミノフェン400mgを内服(計2000mg/日)しました。午前中はだるさが続くのとふとした拍子に首と頭の痛みがあり、昼12時にアセトアミノフェン400mgを内服しました。その後はややだるさが残るも改善していき、夕方にはほぼ全快となりました。
4日目 朝は特に問題ない感じだったが、午前中にでかけたときに腰痛があり首も注射した腕の逆側に張りがある感じでした。昼前に頭痛や倦怠感が出現したためアセトアミノフェン400mgを飲みました。午後には症状は改善して普段どおりになりました。
5日目 特に何も問題なく経過しました。
特に2回目の2日目の副反応がつらかったです・・・
終わりに
ワクチン接種がすすめば窮屈な世の中の状況から開放される日が近づいてきますが、懸念事項はないとはいえず、慎重な判断が必要という立場を取らせていただきます。医療者ということ、実際の技術面での信頼性などから接種をしました。かかると重症化してしまうリスクのある方やご高齢の方などは接種のメリットが上回る可能性が高く、なにもない健康の方に関しても急場での安全性はある程度保証され、長期的副作用のリスクをどう考えるかになるでしょう。
まとめると
- ウイルスは厄介な性質で治療薬開発は副作用まで考慮すると非常に難しい
- 新時代のワクチンとしてウイルスベクターワクチンとmRNAワクチンがあり、日本では今の所、mRNAワクチンが承認されていく見通し→やっていることは以前のワクチンと同じとも考えられる
- 副反応は軽度なものが大半を占めるが、実体験としては結構辛い。
- 長期的なリスクは不明瞭(以前のワクチンと同様のことを行っていると考えると心配ないかも?報告待ち)
- 妊婦と小児に関しては徐々に適応が拡大されてきており、妊婦に関しては妊娠時期やリスクとの兼ね合いになるため主治医と相談を。小児は試験が進行中であり追って報告が待たれる。→妊婦へは接種は推奨されるとなりました(2021/7)。
最初にも述べましたが個人への接種の強制するものではなく、当ブログでは一切の責任を負いません。個人及び主治医の先生などとの話し合いで接種を決めるようにしましょう。
1年に1回の接種が推奨されるという話もあり今後の動向に注目したいですね。
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