健康診断結果:肝酵素上昇の指摘があったら NAFLD、アルコール性脂肪肝などの話

こんにちは、 Dr.シェパード (@dr-shepherd-ns-rabbit) です。

今回は肝臓のお話です。特に健康診断や人間ドックの関連として肝酵素上昇を指摘されたらという視点で疾患を紹介していきます。

Dr.シェパード

結構みなさんが引っかかる項目で心配になることも多いところだと思いますので、解説します。健康診断シリーズも増やしていきたいですね。

目次

ポイント

  • 肝酵素上昇を指摘される患者数はおよそ3人に1人ほどと推定されるので珍しい話では無くなっている
  • 原因にはアルコール、肥満、薬剤やサプリメントの開始、ウイルスなどによる感冒、自己免疫性疾患、悪性腫瘍などがある。
  • アルコール摂取量が男性30g/日、女性20g/日未満であれば非アルコール性脂肪肝疾患/脂肪肝炎(NAFLD/NASH)が想定される
  • 薬剤やサプリメントなどは検査前に始めたものすべてが可能性がある
  • ウイルスは肝炎ウイルス(A、B、C、E)、ヘルペスウイルス属(HSV、EBV、VZV、CMVなど)、ヒトパルボウイルスB19などがあり、海外渡航や食事歴、接触歴が大事となり検査日付近の体調変化がなかったか記録しましょう
  • 自己免疫性疾患や悪性腫瘍は追加検査しないとわかりません。
  • アルコール性やNAFLD、自己免疫性疾患では将来的に肝硬変へといたり不可逆となる可能性があるため、肝酵素上昇を指摘されたら消化器内科を受診しましょう。

肝酵素上昇とは

そもそも肝酵素上昇とは、血液検査でAST(GOT)、ALT(GPT)の値が正常範囲内よりも高いことを言います。異常値の設定は検査キットなどにより異なるため、正常範囲内の記載を参考にどこまで乖離しているかを見ていただきたいです。ASTに関しては心筋や骨格筋、赤血球などにも存在し肝臓が問題ある以外のことでも上昇します(例えば筋肉トレーニング中などでもASTや筋肉の酵素CKなどが上昇します)ALTは主に肝臓に存在するため肝障害を反映しやすいです。診断文での肝酵素上昇には入りませんが、肝臓や胆嚢・胆管などの障害を反映する検査所見としてT-Bil(総ビリルビン)/D-Bil(直接ビリルビン)、γ-GTPやALPもありこれらを複合して評価をしていきます。ビリルビンは肝臓で作られ、胆管を通り便にまじり、茶色くなる元になります。γ-GTPやALPは体内の酵素の一つです。

アルコール性の場合ASTの方が高くなりやすく’Sake’のA’S’Tと医学生の時に覚えたりしますし、γ-GTPも高くなりやすいです。肝臓自体ではALTの方が高くなりやすく’Liver’のA’L’Tと覚えることが多いです。

ちなみに肝酵素上昇と肝機能障害は厳密には別物です。肝機能障害は広義では肝酵素上昇などを含めた血液検査異常も指しますが狭義では肝臓機能の異常のことであり肝障害度分類やChild-Pughスコアで用いる項目の異常(PT延長、腹水、黄疸、アルブミン低下など)を指すため、ASTやALTが関係ありません。

鑑別疾患

アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、ウイルス性肝炎(肝炎ウイルス:A,B,C,E、一部のヘルペスウイルス属、ヒトパルボウイルスB19、麻疹、風疹など)、自己免疫性肝炎(AIH)、原発性胆汁性胆管炎(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、薬剤性肝炎、ヘモクロマトーシス、ウイルソン病など

検査項目: 上記疾患を鑑別する項目をピックアップします。個々の症例に応じて追加などを検討します。

HBs抗原(HBV)、HCV抗体(HCV)、IgM-HA抗体、IgA-HEV抗体、IgM-HSV/IgG-HSV抗体(HSV: ヘルペス1・2)、IgM-VZV抗体/IgG-VZV抗体(VZV: ヘルペス3)VCA-IgM抗体/VCA-IgG抗体/EBNA抗体(EBV: ヘルペス4)、IgM-CMV抗体/IgG-CMV抗体(CMV: ヘルペス5)、IgG、IgM、IgA、IgG4、抗核抗体、抗ミトコンドリアM2抗体

必要に応じて: ヒトパルボウイルスB19 IgM、麻疹ウイルスIgM/IgG、風疹ウイルス IgM/IgG、(セルロプラスミン、トランスフェリン飽和度)

腹部超音波検査も行いましょう。必要に応じてMRCPやERCPなども要します。

問診のポイント

  • 身長と体重、最近の体重増減、他の生活習慣病の既往
  • 飲酒量
  • 最近の薬剤やサプリメントの開始
  • ウイルス性感冒症状の有無(全身倦怠感や微熱や発熱、皮疹、咽頭痛など)
  • ジビエ料理や豚肉の生焼けでの摂食
  • (性交渉歴)

入院の適応は肝酵素の4桁以上の上昇、全身状態不良、食事摂取困難などです。軽度の上昇では外来でみられることがほとんどです。

肝酵素上昇をきたしうる疾患について

アルコール性肝障害と非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)

アルコール摂取量により区別されます。前者がアルコールによるのに対し後者はアルコール摂取量が低いが肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症といった生活習慣病の一型となります。

アルコール摂取量は必ず問診しましょう。アルコール性の場合は過少申告も起こりえます。

アルコール換算量は日本酒1合=ビール500ml=ワイン200ml=ウイスキーやブランデーのダブル(60ml)=焼酎0.5合=20g

また身長、体重(+BMI)と体重増減歴、既往症についての問診も行いましょう。

B型肝炎/C型肝炎

基本的には母子感染(垂直感染)のことが多い2つの肝炎になります。

母子感染でどちらも慢性化しやすく、慢性肝炎の状態で見つかることが多いです。

また、成人感染例としては血液や血液を含んだ体液接触(性交渉、使い回しの器具使用、1990年代までの輸血歴)による水平感染が近年増えており、B型肝炎ではジェノタイプAという欧米型のタイプC型肝炎では基本的に70%が慢性化しやすいです。

B型肝炎では別ページにて解説していますが、複数項目の血液検査を行い現在の状態を把握し、それに応じた治療となったり経過観察となります。現時点の医療ではウイルス自体の排除が難しいです。

C型肝炎でも複数項目の血液検査により状態を把握し、それに応じた治療または経過観察となりますが、治療薬の登場によりウイルス排除が可能になりました。

健康診断などでは基本的にはHBs抗原、HCV抗体という検査項目でスクリーニングされますが、特にHCV抗体では抗体価が低く偽陽性となっている場合もありますので、引っかかった場合に必ずしも感染とは限りませんが、必ず専門医療機関を受診しましょう。

検査項目:HBs抗原、HCV抗体

A型肝炎/E型肝炎

こちらもそれぞれの肝炎ウイルスによる感染ですが、上記2つと違い慢性化することがほとんどなく、急性肝炎で終わることが多いです。一方で劇症肝炎の報告もあり注意が必要です。

症状は全身倦怠感、食思不振、尿の濃染、黄疸などです。

感染経路

A型肝炎は生牡蠣などの魚介類、生水・非加熱食材による経口感染、MSM(男性同性愛者)を含む性交渉があります。

E型肝炎はブタ・イノシシ・シカの肉やホルモンなどで加熱不十分な生焼け状態で摂食した経口感染があります。

どちらも潜伏期間が長く、2-6週間程度のため1-2ヶ月経過して発症することがあるため忘れた頃に出てくることがあります。

他疾患とは肝酵素上昇が1段程度が違う印象です。肝酵素の上昇が4桁になることも多く、全身状態不良、食事摂取不良、肝酵素4桁では入院も考慮されます。

検査項目:IgM-HA抗体、IgA-HEV抗体

ヘルペスウイルス属による肝炎

ヘルペスウイルス属の一部で肝炎を呈することがあります。

基本は軽症の一過性感染で済むことが大半ですが、免疫低下状態などがあると重症化することがあります。

EBV(Epstein-Barr Virus)肝炎

10-20歳代の急性肝障害で比較的頻度の高い疾患としてEBVによる伝染性単核球症があります。

身体所見で咽頭痛や扁桃腺の腫大・白苔付着、右上腹部痛や不快感、発熱といった症状、血液検査で異型リンパ球の増加や肝酵素上昇があれば疑います。

検査項目:VCA-IgM抗体(急性感染を反映)、VCA-IgG抗体(急性期から回復期以降を反映)、EBNA抗体(感染から1ヶ月後~終生感染を反映)→VCA-IgM抗体陽性でEBNA抗体陰性で急性感染と診断する

サイトメガロウイルス(CMV)肝炎

こちらも伝染性単核球症を示し、EBVに似た臨床像を呈します。

血液所見で異型リンパ球を認めたら鑑別に挙げましょう。

検査項目:IgM-CMV抗体、IgG-CMV抗体→IgM-CMV抗体の陽性で可能性が高いと診断。

他のヘルペスウイルス属

ヘルペスウイルス属の種類

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ヘルペスウイルスの種類主な疾患
HSV-1 口唇ヘルペス、性器ヘルペス、角膜ヘルペス、新生児ヘルペス、ヘルペス脳炎、カポジ水痘様発疹症
HSV-2 性器ヘルペス、臀部ヘルペス、新生児ヘルペス、脊髄炎・無菌性髄膜炎
VZV(水痘・帯状疱疹ウイルス)水痘、帯状疱疹、Ramsay-Hunt症候群
EBV(Epstein-Barr ウイルス)伝染性単核球症、慢性活動性EBV感染症、上咽頭がん、バーキットリンパ腫、EBV関連胃癌
CMV(サイトメガロウイルス)伝染性単核球症、間質性肺炎、CMV網膜症
HHV-6 突発性発疹、脳炎・脳症、DIHS
HHV-7 突発性発疹
HHV-8 カポジ肉腫、キャッスルマン病、PEL

この中でHSVやVZVは肝障害をきたすことが知られています。

検査項目はそれぞれのIgM、IgG抗体を測定し、IgMが陽性であれば診断します。

他のウイルス感染

肝炎をきたしうるウイルスとしては他に、麻疹・風疹、ヒトパルボウイルスB19 、コクサッキーウイルス、パラミクソウイルスなどがあります。

特に麻疹・風疹は感染力が高く隔離が必要となるために早期の診断が重要です。特徴的な皮疹などの症状や日本においては海外渡航歴、ワクチン接種歴といった問診が重要となります。

ヒトパルボウイルスB19はりんご病とも呼ばれる伝染性紅斑の原因ウイルスで、身近な人、特に子供でりんご病が流行していないかの問診が重要です。

コクサッキーウイルスやパラミクソウイルスは種類も多く特定は困難な事が多いです。

検査項目:麻疹IgM抗体、麻疹IgG抗体、風疹IgM抗体、風疹IgG抗体、ヒトパルボウイルスB19-IgM抗体

自己免疫性肝炎/原発性胆汁性胆管炎/硬化性胆管炎

自己免疫による肝障害のパターンです。

好発年齢がおよそ中高年で自己免疫性肝炎と原発性胆汁性胆管炎は女性に多く、硬化性胆管炎は男性に多く、20代にも出現します。

それぞれに関連する検査を行い疑う事ができますが、最終的な診断は肝生検になります。

自己免疫性肝炎はステロイド治療が有効で他にも治療があるのですが、他2つに関しては治療するのは困難で悪化させないための補助治療がメインとなり根本治療には肝移植となります。

早期の治療介入が重要になるため、肝酵素上昇で医療機関受診を推奨する一つの疾患になります。

検査項目:IgG、IgM、IgG4、抗核抗体、(抗平滑筋抗体、抗LKM-1抗体:基本的に保険適用外でLKM-1は抗核抗体や平滑筋抗体が陰性の場合に適応になる)、抗ミトコンドリアM2抗体

薬剤性肝障害

究極的にはどんな薬剤、漢方、サプリメントでも起こしえますが代謝経路により起こしやすさが変わります。

また多くは1ヶ月以内の使用開始ですが、3ヶ月以上の服用でようやく出てくる場合もあります。

受診する場合にはサプリメントまで含めて思い出しておくとスムーズでしょう。

基本的には被疑薬の中止です。

どうしても治療に不可欠である薬であれば減量や継続で経過を診ていかざるを得ない場合もありますが、専門医と連携して行いましょう。

治療として他にウルソデオキシコール酸やグリチルリチン製剤、副腎ステロイドなどが行われます。

終わりに

健康診断で肝酵素上昇と言われたらということで大まかに解説しました。

個々の疾患についてはそれぞれのページで解説をしていきます。

罹患率の高い肝酵素上昇は生活習慣から自己免疫性疾患まで幅の広い原因がありますので、専門外来を受診いただき精査する必要があります。

また外来にあたる先生方には少しでも参考になっていれば幸いです。

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この記事を書いた人

首都圏で消化器内科医として臨床に携わり、消化器内科や医学一般について、医療者の生活についてなどの情報を発信しています。

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